スーパー銭湯に閉じ込められた、3人の男

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 風呂はいい。嫌な事を洗い流してくれる。  ここは、俺の行きつけの銭湯。  昔ながらの銭湯ではない。いくつもの風呂があるスーパー銭湯。炭酸風呂、泡風呂、水風呂、サウナ、さらに、室外に露天風呂がある。  酷暑の夏は、工事現場で働く人間にとっては辛い。  しかし、暑いほどビールが美味い。  この銭湯は飲食物を提供している。冷えたジョッキで生ビールを頂いてから、風呂に入るのが最高の贅沢。  足しげく通っているので、今日は貯まったポイントでクラフトビールを飲むことができた。  露天風呂に浸かりながら、空を眺めた。星がよく見える。都心から離れているだけのことはある。俺は伸びをして、肩の筋肉をほぐした。 「株で儲けちゃってさ」  30代前半とおぼしき男性同士の会話が耳に入る。2人とも茶髪でヤンキーっぽい。 「どの位?」  男性は両手を開いて10を作った。 「10万円?」 「いや、100」 「嘘だろ! 出たらビール奢れ!」  男性は「大声を出すな」と相手の口を塞いだ。  風貌で判断してはいけないが、信じがたい話だ。だが、こういった会話を聞くのは嫌いじゃない。  風呂にスマホは持ち込めない。電話でもなく、メッセージアプリでもなく、直接的な会話でコミュニケーションすることが強制される。そんな稀有な場所が銭湯だ。  俺はいつも一人、会話に耳を傾けるだけ。しかし、他人のコミュニケーションを聞けることが、孤独感を薄めてくれた。  もしかしたら、ビールでも、風呂でもなく、人との接点を求めて、ここに来ているのかもしれない。  彼らの年齢……30歳くらいの頃は、仕事に夢中になっていた。大手商社に勤務し、昼夜問わず海外と取引をしていた。  そして、取引先に勤める女性と出会って結婚……昔のことだ。今は日雇いの仕事を点々とする、独身貴族。  もう一度、伸びをすると、眠気が襲ってきた。  今日は、酔いが回るのが早い。露天風呂から上がって、周囲に置かれたプラスチック製の椅子に腰を下ろした。  温まった体に吹きつける夜風が心地よい。椅子は10席とも埋まっていた。目を閉じている人も多い。  俺もタオルで股間を隠して、目を閉じた。
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