憑依 終

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憑依 終

「これからどうする?」  響にそう聞かれたのは帰りの新幹線だった。  横に座る響はしかし俯いていた。 「帰る場所、ないですからね」  愛人は小さく返事をした。窓の景色に向けて。 「そうだよね」  と響は言った。  愛人は響に顔を向け、「響さん達は?」と尋ねた。  うん、と響は頷いた。  意味が分からずじっと表情を伺う。  響が愛人を見た。  とても澄んだ目をしている、と愛人は思った。何の悪も知らないような純粋さ。同時にこれから多くの悪を知っていくのだろうな、という残酷さ。 「闘い続けるよ」  響がそう言った。  はい、と愛人は返事をした。  闘い続けるしかないだろう。これからも。  前の方で赤ん坊が泣きだした。母親があやすのだが、それが引き金であったかのように更に大きな声。たまらず車両を出て行く。  後ろの席で缶ビールを開ける音。次いで通路を挟んだ隣からノートパソコンを叩く音。  景色が流れる。山々が、民家が、ビルが、コンビニが。  響が言っていたように、世間は今日も平和だ。  ちょっと気分転換、と言って響は席を立ち、デッキへ向かう。
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