4人が本棚に入れています
本棚に追加
憑依 終
「これからどうする?」
響にそう聞かれたのは帰りの新幹線だった。
横に座る響はしかし俯いていた。
「帰る場所、ないですからね」
愛人は小さく返事をした。窓の景色に向けて。
「そうだよね」
と響は言った。
愛人は響に顔を向け、「響さん達は?」と尋ねた。
うん、と響は頷いた。
意味が分からずじっと表情を伺う。
響が愛人を見た。
とても澄んだ目をしている、と愛人は思った。何の悪も知らないような純粋さ。同時にこれから多くの悪を知っていくのだろうな、という残酷さ。
「闘い続けるよ」
響がそう言った。
はい、と愛人は返事をした。
闘い続けるしかないだろう。これからも。
前の方で赤ん坊が泣きだした。母親があやすのだが、それが引き金であったかのように更に大きな声。たまらず車両を出て行く。
後ろの席で缶ビールを開ける音。次いで通路を挟んだ隣からノートパソコンを叩く音。
景色が流れる。山々が、民家が、ビルが、コンビニが。
響が言っていたように、世間は今日も平和だ。
ちょっと気分転換、と言って響は席を立ち、デッキへ向かう。
最初のコメントを投稿しよう!