憑依 終

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 自動販売機の前で小銭を取り出す。投入する直前でまた小銭を戻す。ジュースを飲むつもりだったのだが、なんだかそういう気分になれなかった。  車窓へ身を預け景色を眺める。  前の扉が開き、そこへ熊沢が現れた。 「もう大丈夫なの?」  響の問いに熊沢は胸を強く叩いた。  顔中傷だらけで、あまり大丈夫そうには見えなかったが、ひとまず安心する。 「ちょうど行こうと思ってたんだ。志藤さんが、響さんにって」  熊沢がそう言ってポータブルDVDプレイヤーを差し出す。  『UZA』映像制作会社の面々は、別の車両に乗っている。  首を傾げながら響はそれを受け取る。  熊沢は響の肩をポンと叩き、扉の向こうへと戻って行った。  蓋を開き、再生ボタンを押す。  ああ、と響は声を漏らした。  そこには小町の姿が映されていた。  ティーカップをお盆に乗せ、慎重に歩く小町。  手づかみでシリアルを食べる小町。  響は思わず口元を手で覆った。  今までずっと泣かなかったのに、ずっと我慢してたのに、と響は拭うこともせず、嗚咽(おえつ)する。  安らかに眠る小町の姿が涙で濡れていた。
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