4人が本棚に入れています
本棚に追加
自動販売機の前で小銭を取り出す。投入する直前でまた小銭を戻す。ジュースを飲むつもりだったのだが、なんだかそういう気分になれなかった。
車窓へ身を預け景色を眺める。
前の扉が開き、そこへ熊沢が現れた。
「もう大丈夫なの?」
響の問いに熊沢は胸を強く叩いた。
顔中傷だらけで、あまり大丈夫そうには見えなかったが、ひとまず安心する。
「ちょうど行こうと思ってたんだ。志藤さんが、響さんにって」
熊沢がそう言ってポータブルDVDプレイヤーを差し出す。
『UZA』映像制作会社の面々は、別の車両に乗っている。
首を傾げながら響はそれを受け取る。
熊沢は響の肩をポンと叩き、扉の向こうへと戻って行った。
蓋を開き、再生ボタンを押す。
ああ、と響は声を漏らした。
そこには小町の姿が映されていた。
ティーカップをお盆に乗せ、慎重に歩く小町。
手づかみでシリアルを食べる小町。
響は思わず口元を手で覆った。
今までずっと泣かなかったのに、ずっと我慢してたのに、と響は拭うこともせず、嗚咽する。
安らかに眠る小町の姿が涙で濡れていた。
最初のコメントを投稿しよう!