憑依 壱

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 女性が男に言った。男は愛人を見、女性を見、また愛人を見てから頷いた。  女性が出て行き、男が代わりに室内へ。手の平くらいの長方形の紙を持っている。それを愛人の胸に貼り付ける。見ると、行書体(ぎょうしょたい)のお経のような漢字が縦にずらりと並んでいる。お札のようだ。  男はその場にしゃがむと両の拳を握り、右腕を右胸の前に左腕を天へ掲げ、念仏を唱え始める。腹の底をかきむしるかのような低い声。  すると愛人の胸に貼られたお札が青白く発光し始める。その光は徐々に広がって行く。胸から広がり、腕、足、首、愛人の全身を包み込む。  扉が開き同じ格好の男が二人、台車のような物を押しながら入って来る。二人がかりで台車を持ち上げると、黒い扉の付いた大きな箱が目の前に。  これは、棺桶(かんおけ)か。愛人は自分がここへ入れられるのだとすぐに理解した。  その通りに、棺桶を運んで来た二人は鎖を外すと、愛人を両脇から抱え上げ、棺桶に押し込んだ。腰と首にベルトを巻かれる。青白い光は全身を包んだままだった。 「札の効果があるとはいえ、充分に気を付けるように」
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