1,カナダの小悪魔

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 カナダ東部、ニュー・ブランズウィック州、セント・ステファン、エルム・ストリートの状況を今、実況するならば、〝混乱〟、〝大騒動〟という言葉がふさわしいだろう。  セント・ステファンの人々は、だいたい七歳になった頃に、みんなある絵本を読んでもらう(ほとんどがお袋や祖父母にだ)。全十三ページのとても短い、この地域が舞台の絵本。この本が初めて発行されて約半世紀、この地域の子どもにこれを読んであげることが義務のようになっていた(自然に発生した風習のようなものだ)。  この絵本はカナダ全土で知らない人は珍しいほどに、前代未聞の大ヒットを記録した。セント・ステファンの人々が偉いわけではまったくないのに、この地域の人々は、初対面の人に出身地を聞かれると、皆あえて「ニュー・ブランズウィック州です」ではなく、「セント・ステファンです」と言うのだ。この地域人々ののちょっとした誇りだ。    本のタイトルは、〝Little Daisy〟…  さて、ここエルム・ストリートの人々は、この道で起こることに異常な程に敏感だった。  道を野良猫やリュックサックを背負った子どもが歩いていたりするだけで、窓に顔を押し当てたり身を乗り出したりして反応するほどだ。  ご近所の噂が大好物というわけではない。常に〝彼ら〟がなにかしでかすのではないか、と目を光らせていなければならないのだ。エルムの人々の、いわゆる第二の仕事と化していた。  エルムの道沿いは、家が特別多いリゾート地なわけではないが、セント・ステファンで最も有名な〝彼ら〟の、神出鬼没地として、エルムもそこそこある意味有名であった。  七月のある日。子どもたちは夏休み真っ只中。普段より厳重警戒がなされているエルム。だが、そんな人々の緊張感もままならず、二人を抜いて三人の〝彼ら〟、いや、人々にとって〝ヤツら〟が、現れた…。    
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