そいつは特別な友だち

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そいつは特別な友だち

ずっと考えてることがあるんだ。昔、守れなかった約束があって、もし今それが果たせるんだったら。 俺はずっと迷ってる。 だから教えてほしい。 俺はどうすればいいのか。 守りたいんだ。友人との約束を。 でも、でも。 どうすればいいのかわからないんだ。 頼む。誰か、教えてくれ。 昔、俺の住んでた所の近くに小さな山があった。そこで遊ぶのが俺とそいつの日常だった。 そいつは俺と同い年。学校は違う。家はそこそこ離れてる。ただ、家からかかる時間が何分で大体同じだからって理由で、俺たちは山で遊んでた。 どうやって知り合ったかは覚えてない。どうせ山で遊んでて、偶然出会ったんだろう。秘密基地作って、探検して、二人だけの特別な時間と空間を共有した。共通の知り合いもいない。そいつとのことを知ってる奴もいない。でもそいつはそいつで俺と同じように向こうで生活してる。 勉強なんてどうでもよくって、嫌なことがあったら構わず口にできた。悪口だって。すごく心が軽くなったよ。そいつだって同じだったろうさ。俺たちは誰よりも近くなった。 夏休みなんかはさ、いちいち家に戻って飯を食うなんて時間も惜しかったから、時間を決めて集まった。 昼正午。飯を食ってから来い。夕飯ぎりぎり、日が暮れるまで遊ぼうぜ。それが俺たちだけの約束だった。 携帯電話もPHSもポケベルも持ってない。家電の番号だって知るはずない。つまり連絡手段がないってこと。 ただ正午に着けるなら行ったよ。それだけだ。時報のチャイムが響く時にあの場所で立っていられるなら、小さな予定なんていくらでも蹴った。着いた時、あいつがそこにいなくても裏切られたなんて一度も思ったことなんてないさ。いいんだよ。ただ俺にとって特別で大切な時間だったんだ。 いいんだ。あいつが俺のことをどう思ってたかなんて。どうでもいいんだ。どうでもいいくらい、俺たちは一緒に笑った。なあ、これが俺たちの関係だよ。悪くない、だろ? 俺たちの集合場所はその小山のとある場所だった。なんでかそこそこ大きな横穴が開いてたんだよ。柵で立ち入り禁止になってる謎の穴。その前に俺たちは集まった。 奥からはひんやりした風が吹いてくる。何度も入ってみようとしたけど、入り口の柵以外にも鍵付きの扉がちらりと見えた。そんな不思議な横穴、ガキんちょの俺たちは興味津々で覗き込んでは想像を膨らませた。 地下帝国への入り口だ、大蛇が這い出した跡だ、実はトロッコが隠されている金鉱山だったんだ、異星人の秘密基地だ。くだらない話で盛り上がったよ。一度も入れなかったその横穴。入れないからその奥には未知と夢が待っていた。 みんなに内緒で遊んだ時間。俺は最高に楽しかった。ずっと、そうだった。 日が暮れそうになって山を出るとき、俺たちはいつも同じ約束をした。また正午にあの場所で。あの、横穴の前で。 それが明日なのか明後日なのか、ずっと先なのか。時間は決めても何日かは言わない。 俺たちにはその約束がいつも「次」を示していた。別れの「さよなら」じゃなくて、再会の「またね」。だからまた会える、会いに行かなくちゃって気持ちをいつも持ち続けられた。 いや、今もそうだ。 約束を守りたいんだよ。 あいつとの約束を守って、また、あいつと遊びたい。 でも、もう無理なんだ。できないんだ。
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