陰陽師A

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陰陽師A

 【1】  未だ日が昇らない教室に、生徒5人は集まっていた。まるで男と女でチェスの駒になりきっているかのように微動だにしない。その異様な光景は、観察者を惹きつけるには十分に事足りた。 亮 K 遼 М 実里 N まつり G 尊 K 亮 G 遼 G 実里 A まつり R 尊 N 亮 K 遼 T 実里 W  段々と日が昇り、生徒たちはそのまま生活し始めた。教室は綺麗だが、学校と言うには美しすぎる。校舎のすぐ脇には踏切があり、忙しなく往来する電車が煩かった。  教室後方に女子、前方に男子が集まる。こころなしか、先ほどの並びを崩していないように感じた。 実里 それでさー、みてこれ。 まつり うわっ!!盛れてんねー!! 実里 じゃない?キャパいよねー!! まつり えーエアドロして? 実里 だから、ウチAndroid民だってば!! まつり ごめんって、インスタ送っといて。 実里 オッケー。うっわ、てかバ先の連絡    LINEなんだよね〜。時代遅れにも程が   あるっつうの!!  まつり 今どきLINEとか、ジジイかw 実里 ガチそれ。アプリ開くのめんどくね? まつり でもバ先インスタ交換とかやじゃ     ね? 実里 うわっきっしょ無理!! まつり じゃね?! 実里 ハゲメタ店長が「実里ちゃん、今日   のバイト僕と一緒にヘルプ入らない?   ドゥフッ」とか送ってきたりしちゃっ   てさ!! まつり きっしょーー!!死ねよ老害w 実里 お前は店長名乗るほど偉くないので死   んでくださーーい!!www  遼と話していた尊、二人の方へ歩き出す。 尊 おい。 実里 ?尊じゃん。 尊 やめろよ。 まつり え? 尊 そーゆーの、やめろよ。  二人、顔を見合わせて吹き出す。 まつり え、大丈夫尊?! 実里 ただの愚痴だから。 尊 だからって大声であんな事…… 実里 いやだから、落ち着いて聞けし。誰    だって嫌なこと愚痴ることくらいあ    るっしょ?ウチらも嫌なことくらいあ   んのよ。 まつり そーそー。声はでかいほうが得すん    のよ! 尊 ……。ったく。  尊が去ると、二人は同じ会話をしだす。  尊は教室を出ていった。  一人になった遼、隅で本を読む亮の机に手をかけた。 遼 「転生後の人生にすらガチャがあるなん   て聞いてない!!外すの怖いから歴代最   強属性を強盗したらまさかの無キャに   なりました」……?なんこれ。 亮 あ、ライトノベルっていう…… 遼 へぇ〜。作者名は?有名な人なん? 亮 「……なデバイス」 遼 は? 亮 だから、「……なデバイス」さんです。  亮、本を見せる。 遼 「てんてんてんなデバイス」で「どっと  むっつのでばいす」さん? 亮 はい。  遼 奥が深いわ……。  途端に目を輝かせる亮。 亮 わかりますか!!この深さが!! 遼 おお何急に。 亮 タイトルや絵、題材から一見ただのファ  ンタジー小説の下位互換のように捉えら  れがちであるだがしかし!!ライトノベル  とりわけファンタジーは、この世の真理  を異世界で探すそんな仕上がりのものも  多くまた意味不明と罵られがちな長いタ  イトルも流行これ然り若者のタイプを求  める価値観とマッチしておりさらには美  しい絵や世界観は見る者を魅了するそれ  だけの魔力を有していてとどめに一話が  短く少年漫画を読む感覚で読める他アニ  メ化もしやすいというまさに二次元のバ  リアフリーといっても過言ではないんで  すキャハッ!!  そのまま倒れ込む亮。 遼 ちょ、落ち着いて言えし。 亮 あ、すみません……。つい。 遼 や、ええねんけど。 遼 名前。 亮 あ……はい? 遼 やから、自分名前なんて言うん?まだク  ラス変わったばっかで覚えてへんのよ。 亮 あ、ほりt、堀田です。 遼 下の名前は? 亮 あ、亮です。 遼 亮ね。ほなそうやって呼ぶわ。 亮 あはい……。 遼 寂しくないの? 亮 あ、え? 遼 !!ごめんなさい、 亮 あ、寂しくはないんです。  遼、頭を下げかけた姿勢で止まる。 亮 昔から、こうでしたから。 遼 昔。  亮 ええ。とくに理由もなく。 遼 理由なく孤立するなんて、そんなこ   と……(またやってしまったと思い)あっ!! 亮 いえ、いいんです。あ僕その、人付き合  いがどうも苦手で……。それで……。 遼 ……。 亮 ……あ、あのどうしました? 遼 もう余計な事言わんとこうと思って。  尊、戻って来る。どうやら授業が始まるようだ。 遼 尊?大丈夫? 尊 ああ。 遼 なら良かった。  暗転。  【2】  彼らはまた、暗い教室に並んでいた。  しかし、尊が少し離れたところに座っている。  少しずつ明転しながら、また朝がやってきた。雨の朝だった。 遼 凄い雨。 尊 そうだな。 遼 亮? 亮 あ、え、ああすみません……。 遼 ねぇ、その敬語やめへん? 亮 はい? 遼 や、なんか息苦しいやん。 尊 たしかに。同級生なんだしな。 亮 ……。 遼 慣れないかもしれないけど、人付き合い  のためにはさ! 尊 それな。俺とも仲良くしようぜ? 亮 ……。 遼 亮? 亮 (立ち上がって)あ、すみません少し外   へ。  遼 え?!あ、ちょちょっと!!  校舎の直ぐ傍の踏切は、古い田舎の踏切で、遮断器はなく、警報機が取り付けられているだけだ。電車の本数も少ない。 亮 (走ったことによる息切れを起こし      て)……。  そこで予鈴のチャイムが鳴り、亮は教室へ戻っていく。  暗転。踏切のみ照らされる。  踏切に亮登場。ほうかになった様だ。 亮 言わなくちゃ……。  空全体が橙に染まり、帰宅の準備を始める一同。 実里 ハッハッハ!!おもろー!! まつり めっちゃおもろくない?!思わず写真    撮っちゃったわーwww 実里 ギャッハッハッハッハ!!LIVEで撮るな   しー!!おなかいたいwww まつり ガチで大津橋先生おもろすぎwww 実里 てか、バ先の店長とそっくりなんです   けどー!!www まつり うわひっどーwwwそれってハゲとメ    タボってことっしょ?たしかに!www 実里 美意識の欠片もない奴は引っ込んで    ろってのwww まつり それなwwwほんまそれwww  二人、ロッカーの前に居る為亮が荷物を取れない。たぶんそれに気づきながら気づかないふりをしている二人。  そこへ遼、歩み寄る。 遼 はい邪魔ー。 まつり 遼じゃん。 実里 何よその言い方ー。 遼 ロッカーの前でたむろしない! 二人 はーい。  二人、教室隅の実里の席に移動する。 亮 あ、ありがとう。 遼 いいのいいの。お安い御用さ。 実里 ねぇ、あれ。 まつり うわ、オタク君じゃん。 実里 何、そーゆーこと? まつり あそこ仲良いんだ……。へぇ〜。 実里 まつり?ちょっとまってよ、アレはだ   めよ!! まつり なんで?別にいいじゃん。 実里 駄目ったら駄目!!中学の時痛い目見た   でしょ?! まつり (不機嫌そうに)……。  まつり、教室を出ていく。 実里 勝手にしなさいよ……!  暗転。  実里の席だけに光が当たる。  そこに、遼がやって来る。 遼 実里? 実里 遼? 遼 (低い声で)なにしてんの? 実里 えっ……。 遼 また同じ事したいの? 実里 したくない!私、いやだよ、あんなのも   う懲り懲り……! 遼 じゃあどうしたらいいか、わかるよね? 実里 ……。 遼 実里!! 実里 わかってる!!わかってんだよ!!でも…… 遼 じゃあ死ねば?  また少しずつ朝が来る。  実里の元気がないことを、まつりは心配している。 まつり 実里?どうしたの? 実里 ……。 まつり ねぇ答えてよ。……実里!! 実里 ……もうやめよう? まつり えっ……。 実里 あんな事して……まだ懲りてないの? まつり なんなのよ、それ。 実里 だから……!! まつり そういうこと? 実里 えっ……。 まつり 同じ事されたいんだ?え? 実里 そういうとこだってば……。 まつり は?  実里、立ち上がる。尊、遼、亮はそのまま固まった。 実里 嫌いなら!!離れとけばいいだけでしょ?!    なんで苦しめるの?!なんでいじめる    の?! まつり ……。 実里 ……。 まつり 変わったね。  まつり、座る。 まつり 前はそんな、優柔不断じゃなかった    のに。死ねよ。 尊 おい……! 遼 (制止して首を振る) 亮 あ、大丈夫……じゃない、ですよね……  。 遼 大丈夫。僕らには、関係ないから。  暗転。 【3】  暗闇の中、雲の隙間から差してくる月灯に照らされ、実里は歩いていた。学校の隣の踏切の前で立ち止まる。 実里 (俯いて泣く)  まつり、黒い上着を着て背後から忍び寄り、実里の背中を押して踏切の中へ。  電車の汽笛と走行音が響く中鈍い音がして、暗転。  少しずつまた朝が来る。 亮 ああああああああの!! 遼 おは〜。 尊 どうした、そんなに慌てて。 亮 みっみっみみみみみ、実里さんが…… 遼 ……。 尊 実里? 亮 亡くなったんです!!  沈黙。  その間まつりは爪をいじっている。 尊 まつり……!! まつり (無反応) 尊 (まつりの机を叩いて)まつり!! まつり なんなのよさっきから。 尊 なんだじゃねえだろ。お前、昨日喧嘩し     てたよな。 まつり だから? 尊 それが関わってんじゃないのか? まつり だったら何なの?あいつが死んだこ         とに私関係ある?無くない? 尊 ……!! まつり 何なの?知らんし。なんでそんなに         実里を庇うわけ?あいつにも非はあ         るでしょ私を裏切ったんだから。 尊 実里はお前を正そうと思って!! まつり うるさいな声がでかいのよ。ガチ何         したいの?実里とデキてんの? 尊 お前らの友情が間違ってんだろうが!! まつり だーかーらそれがうぜぇっつってん              だよ!!正しいって何?そんなの押し        売りじゃん!!こっちの話に口出さない        でくれる?!  まつり、舌打ちをながら立ち上がって。 まつり 折角爪上手くいったのに。気分悪い    わ。  と出ていく。 尊 (悔しそうに座る)!! 遼 なんで? 尊 え? 遼 なんで……そんなに悔しそうにできる   の。 尊 なんでって……。 遼 ていうか亮! 亮 あ、はい! 遼 敬語禁止って言うたや〜ん。 亮 あ、すみませ……ごめん。 遼 宜しい。あと、喋る前に「あ」って付け  るのはおやめなさい。 亮 a……はい。 遼 いい子いい子。  暗転。 【4】  また朝が来る。 亮 遼君遅いね。 尊 ああ、そーだな。    少し時間が経って、遼がバタバタと入ってくる。片手にはお菓子。 遼 ごめーん! 尊 おっせぇな〜。全寮制の高校に何でこんな   に遅れて来れるんだよ……。 遼 いや〜家出ようとしたら鍵失くしてて、     その後見つかったんだけど今度は電気消し   忘れて戻ってそしたら部屋が汚くて思わず   掃除してたー!! 亮 そのお菓子は……? 遼 ああ、そこのコンビニで旗出てたから気     になって買ってきた!!ハッピーターンタコワ   サ味。 亮 おいしいのそれ……。 遼 まあまあかな。 尊 ていうか遼、もう二限目も終わったぞ。先   生怒ってるから職員室行ってこい。 遼 え〜だるい〜。 尊 行け。 遼 は〜い。  遼、また出ていく。机の上にはタコワサ味ハッピーターン。 尊 (ひとくち食べて)まっず。   遼 (戻ってきて)フィ〜。 尊 どうだった? 遼 いや凄かったよ。職員室出たあと廊下に     こんなおっきいヤスデおってさ〜。 尊 はぁ……。ヤスデって何? 遼 ムカデの毒ないバージョンみたいな。 亮 へぇ。 尊 それがこんなとこに? 遼 うむ。 尊 妙なこともあるもんだ。 亮 で、どうしたの? 遼 放置。 二人 ああ……。 尊 なんだ……静かだな、その……。 亮 まつりさん来ないね。 遼 来なくていいんじゃない? 尊 えっ? 遼 だって、来ても居場所ないでしょ。 二人 ……。   尊 ……よし!掃除するか……!!    三人は教室の掃除を始める。  遼がガタガタと雑に机や箒を扱う。気になるのか、尊は終始そちらをチラチラ見ている。 尊 遼、もう少し優しく扱えないか? 遼 へ? 尊 いや、さっきからガタガタしてるから   さ。床傷つくだろ。 遼 (床を確認して)No Problem。 尊 いや……にしたって物は大切にだ   な……。 遼 ま、所詮学校。 尊 だからみんなで使うものは…… 遼 大丈夫やって。壊したりはしないから! 尊 ちょ……!! 遼 ゴミ捨ててきまーす♪ 亮 困っ……たね。 尊 ああ……。あいつあーゆとこあるんだよ        な。 亮 二人は一緒にいて長いの? 尊 いや?高校から。 亮 ズコ。 尊 やっぱまだ関係も浅いのにこんな事言う     と嫌われるかな。 亮 いや……。尊君のいうことは間違ってな     い……と思う。 尊 そこは間違ってないって断言してほしい  なぁ。 亮 あ、じゃあ 尊 じゃあって……(笑う) 尊 初めてかも。 亮 えっ? 尊 亮が笑ったの、初めて見たかも。 亮 ……。 尊 ……こんな事聞くの酷だと思うんだけ      ど、なんで一人なんだ? 亮 ……。 尊 俺、思うんだ。孤立と孤独は違う。お前は   最近俺らとつるむ様になって楽しくなった      だろ?ならそれ以前の一人は孤立  だったんじゃないかな。 亮 ……。 尊 ごめん。変な事訊いて。 亮 とくに無い……。 尊 え? 亮 理由は……とくに無い。 尊 そんなことあるのか? 亮 生まれつきマイナス思考なんだよ。それ  で、ひと、一人で勝手に被害妄想して、  それで孤立して……。の繰り返し。  亮、俯いて出ていこうとする。  腕を引いて引き留める尊。 尊 あるじゃん。 尊 理由、あるじゃん!!  暗転。  踏切に月灯が落ちている。少し、柔らかい色。  亮が座っている。人通りのない田舎だから出来ることだ。 亮 はぁ……。こんなことじゃ大人になんて  なれないよな……。 遼 りょーう!! 亮 遼君……。 遼 どしたん? 亮 ……。 遼 話さなきゃわからないよ。 亮 ……。  遼、くるりと回って、 遼 あーっそ。話さなきゃわかんないけど、話   せないんだ。何があったか分かんないから    色々酷いこと言えちゃうなー! 亮 ……!(明らかに怖気づく) 遼 ひとつだけ教えてあげる。人間には二つ以   上の立場がある。一つは自分にとっての自   分。もう一つは他人にとっての他人。そこ    を超えられるかどうか、それは君次第なん   だよ。 亮 ……。 遼 ふふっ。  亮、立ち上がって、戻っていく。    また少しずつ朝が来る。 【5】 遼 これ面白いね!! 亮 よかった。 遼 何言ってるか分かんないところもあるけ     ど、主人公のツッコミキャラが活きてな     かなか味があるわ。 尊 おはよ。盛り上がってんな、なにしてん     の? 遼 おはよ〜。いやそれが昨日急に亮がラノ     ベおすすめしてくれてね?読んでみたらも   う面白いのなんのって!! 尊 へぇ〜。俺も読んでみようかな  その声をさえぎって、扉を雑に開けてまつり登場。 遼 おはよ! まつり ……。 遼 おはよ!  遼、まつりに駆け寄って 遼 挨拶って、お互いが気持ちよく過ごすため   のコミュニケーションとして大切だと思う   んだ?だからほら。 まつり ……何? 遼 おはようは? まつり ……おはよう。 遼 宜しい。 まつり (ため息をつく)はぁ……。 遼 どしたん? まつり え、なんかさ、実里来なくなったじゃ         ん、学校に。まあ死んだからなんだけ     ど。 遼 そやな。 まつり それで、直前にわたしが実里に嫌が         らせをしてたって言われて先生に怒ら     れたのよ。意味わかんない。 遼 へぇ〜。そりゃ災難だねえ。 まつり でしょ?!やっぱ遼は話わかるわぁ。 遼 だって別に、まつりは関係ないしね。実里   が”踏切で殺された”ことに。 亮 まつり 尊 えっ……。  沈黙。 亮 なにそれ……。 遼 言葉通りだよ。ボク見たんだよねぇ。夜     遅くに、実里を。あの踏切で。 尊 それで……? 遼 黒い服の何者かに、背中を押されて線路内   に転んで。それで跳ねられた。 尊 ……!!あのときの人身事故か! 遼 そーゆーこと。 まつり ……。 遼 ま!!この話は暗いからお終いっ!!  チャイムが鳴る。もう帰る時間だ。 亮 遼君。 亮 少し話があるんだ。いいかな? 遼 ?オッケー。  鞄を持って、踏切前で二人。空は赤くなり始めていて、雨が降りそうな雲が向こうから迫ってきている。 亮 遼君にはお世話になってます。それで、遼   君、僕に「人付き合いのためにタメ口   で」って言ってくれました、よね。 遼 うんうん。 亮 だけど僕は敬語のほうがやっぱり話しや     すい。これは僕の個性なんです。 遼 ……。成程。 亮 それとこないだの事だけど……。  亮、拳を握る。 亮 僕には事情なんてない。ただ口下手で臆     病な所為で孤立しただけ。だから……。 遼 あるじゃん。 亮 へ? 遼 口下手で、臆病で、ボクから見たら優柔     不断だし声も小さいし変なとこ生真面目で   やりにくい奴だけど 亮 ちょっ……とダメージが大きい……。 遼 ごめんごめん。でもさ、それって孤立し     た事情なんじゃないの? 亮 ……。 遼 あと、ごめんね。無理させてたよね。ほ     んとごめんなさい。  遼、頭を垂れる。 亮 そんな……!ていうか、同じ事言ってる。 遼 へ? 亮 尊君に話したときと同じ反応ですよ。 遼 へぇ……(少し嬉しそう)。 遼 ふふっ。それじゃ、帰ろっか。  暗転。    踏切を渡って、尊が登場する。   尊 (座り込んで)はぁ……。  遼、登場して 遼 尊? 尊 え、遼? 遼 どうしたん? 尊 お前の方こそなんでこんな時間に……。 遼 散歩。自律神経壊してるとなかなか寝付     けなくて。 尊 体調悪いのか? 遼 大丈夫。持病やから。それより尊、なんで   ここに? 尊 ……。 遼 はあっ。どいつもこいつも黙り込むのが     得意やのう。聞いてほしいくせに、心が邪       魔してだんまり!!ボク酷いこと言うよ?事   情わっかんないし! 尊 ……。実里が死ぬの、悔しかった。 遼 へっ? 尊 思うんだ。死ぬってなんだろうって。生     きると死ぬって、間があるだろ?男と女     とか、朝と夜とか、大人と子どもと   か……。世の中、同じように二つに別れて       るものは定義とか事情が確立してるのに、   どうして生死だけはこんなにも不明瞭なん   だろうって。 遼 そうかな。生きると死ぬに間なんてある? 尊 あるよ。少なくとも俺は今生きながら死ん   でる気分だ。 遼 ……実里のこと、好きだったの? 尊 (頷く)  遼、尊の肩を持ち、自分のポケットから鈴を取り出す。 遼 ボクね、お家がお寺なの。で、そこでボク   も祝詞あげたりお葬式したりするんだけ   ど。  鈴を鳴らす。 遼 陰陽師って知ってる?陰陽道の呪いで生活   の安寧を祈って、ヒトを取り巻く環境を変   えたりする。それと、催眠なんかもしたり   するんだよ。  尊の身体から力が抜けた。そのまま倒れ込むと、力無く息をする。 遼 尊が本当に生きながら死んでるなら、ボク   の問いに頷いて、この踏切で実里の後を追   う筈だ。  遼、尊に覆いかぶさる。 遼 尊君、君は、本当に死にたい?  尊、動かない。 遼 ……。ほら、死にたくないんじゃん。  遼は鈴を鳴らす。すると催眠が解けたように、尊は起きあがった。 尊 俺……。 遼 ほらね。生きると死ぬに間なんてない。心   は死にたくても、身体は死にたくない。だ   から、死ぬか死なないかの答えは二つしか   ない。 尊 ……。 遼 それか、実里は尊に死んでほしくないと     思ってる。尊が死んでも、実里の為には     ならないから。 尊 ……なんか、あと一歩、背中押してもらっ   てすっきりしたわ。俺、生きる。ありがと   な。 遼 うん。  尊、去る。  遼は、鈴を手にした。 遼 神のご加護があらんことを。  遼は、踏切に飛び出した。  踏切は暗転していく。電車の汽笛の音がして、そして鈍い音もしたが、その先のことは暗くて見えなかった。 【6】  (明転し)翌朝。  教室には、亮と尊。 尊 遼……。  遼の机には、花が供えてある。  遼が生前ふざけて要求したことのある、夾竹桃の花だった。 亮 夾竹桃の花は空気をきれいにしてくれるか   ら……って、遼君も面白い遺言を残します   ね。 尊 そうだな……。 亮 ……昨晩の遼君の様子は? 尊 普通だったよ。のらりくらり、豆腐みた     いに掴みどころはないのに、芯のある目     をしてて……。 亮 ……通夜は? 尊 明後日。 亮 そうですか……。  どこか気まずそうな二人。 まつり (やってきて)……。 尊 おい。 まつり ……。 亮 尊君……? 尊 おい!! まつり うるさいな何?!何か用?! 尊 手。 まつり は? 尊 手、合わせろ。クラスメイトが死んだん     だから。 まつり なんであたしが……。  まつり、手を合わせる。 まつり (顔を上げると同時に転ぶ真似をして         花瓶を倒す) 尊・亮 !! まつり ごめんごめんw足がもつれちゃってね     w 尊 お前……! まつり 何〜?ミスをそんなに悔しそうにw 亮 尊君抑えて……!! まつり だいたい何?この花。夾竹桃って、         そんなにいい花でもな……  まつり、こぼれた花瓶の中身を見て まつり キャー!!!! 尊・亮 ?!?! まつり な、なな何よ!!それ!!  尊・亮、花瓶を覗きこんで。 尊・亮 うわああああっ!!  机の下には、生首。  髪が長い。実里のものだろうか。  その時、踏切に、実里の霊が現れる。 実里の霊 死にながら生きてるよ。皆!!  暗転。  その時、教室の壁が倒れて消える。  三人の生徒は、そこから外へ抜け出した。   彼らを隔てる壁は、もう無い―。          完 照明⇨バトン2本、地明り・シーリングが基       本。単サスは上手側、踏切に当てて絞り    を広く取る。ホリゾント幕は時間経過の    ため点ける。フェードアウトはゆっくり    と。 幕⇨上手側は、大道具(踏切)を隠すため二間、   最も手前もしくは二枚目の引割幕をしめ   る。下手側は自由。 音響⇨電車の走行音が必須。 上演目安時間:30〜45分  作者に無断での上演・潤色(外部に公開しない読み合わせや自主練習を除く)はお控えください。また、この脚本は上演を前提としたものではありません。高校演劇などで使用する目的で作成し、公開しております。
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