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悲鳴2
追っている方の人間の名は、デルフィヌス。男装の麗人であり、更に隻眼であるという、アニメ好きのゲンマからすると、設定もりもりのキャラクターのような存在だ。そのような理由もあって、ゲンマは最近、邪魔な人間を、彼女に始末してもらうことが多い。彼女は、依頼と金を得て、人の命を奪う仕事をしている。その際に、動機は問われないのも良い。
デルフィヌスは、これから命を奪う相手に向かってしか、言葉を発さないのだ。初めは、声が出ないだけかと思ったが、文字でのやり取りもしないという徹底ぶり。依頼人であるゲンマは、こうして監視カメラをハッキングした映像で、彼女の仕事風景を見て、デルフィヌスという人となりを知るしかない。
「助けて! 助けてください!」
追われている女が逃げ狂う様に、ゲンマはスナックを食べながら噴き出してしまった。銃を持った相手に、どんなに逃げたって無駄だろう。
「俺のゲームの腕をバカにしやがったから、ぶっ殺してやるんだよ。ざまぁ!」
画面越しに罵って、また笑う。
いよいよ背中に壁が迫り、追い詰められて逃げられなくなった女に、デルフィヌスはブーツの靴音を響かせながら、更にじりじりと寄って行く。
「助けて……あ、あと一回だけ、チャンスをください。ちゃんと謝りますから」
乱れた髪を涙で顔に貼りつかせている女に、デルフィヌスは静かに銃を掲げ、その銃口を女の口に押し込んだ。
そして、真っ黒な口紅が塗られた唇を、上下に動かす。其処から、カナリアのような声が出た。
「助けを求められるだけマシだ」
銃口を口に入れられた女は、それでも喋ろうと呻いている。
「うっ」
唾液が漏れて、月を反射した。汚いな、とゲンマは顔を顰める。折角のスナック菓子がマズくなりそうだ。
デルフィヌスは、表情すら変えずに、女に顔を近づけた。
「本当に苦しい時は声も上げられない。肉体的にも精神的にも」
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