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第十四話 木霊の森へ
「ここはまだ木霊の森じゃないよ。もうすこし東に行ったところが木霊の森さ」
二人と一匹は、オルマヌアーズに到着すると、まずは宿屋を探した。
そして見つけたのは西の森人亭という名前の宿屋で、主人はふくよかで目が真ん丸とした女性だった。
他にも宿屋はたくさんあったが、二人と一匹はこの女性にどことなく親近感を覚え、話しかけやすいと思って、ここを選んだのだ。
実際、彼女は町のことを聞いても、嫌な顔一つせずに色々と教えてくれる。
森に入るのなら、丈夫な靴をいくつか準備した方がいいとか、虫除けもたくさん持っていった方がいいとか、あそこの店は品物はいいが店主の親父が愛想が悪いとか、聞いてもいないこともたくさん教えてくれた。
お陰で、森に入るために買い揃えたものは随分と多くなり、これも森に入るために買った大きなリュックサックがぱんぱんに膨れてしまうことになった。
セダもリュックサックを買い、いつもよりも多くの荷物を持つのだが、いくらセダが元気が良いと言っても、ジェサーレと比べればかなり力がない。だから、重たい荷物をセダに背負わせたら可哀想だと、ジェサーレが大きなリュックサックを背負うことになったのだ。
「よいしょっと」
出発の朝、大きな大きなリュックサックを特にふらつくこともなく背負ったジェサーレだが、その様子を見たセダは、やはりどこか心配そうである。
「やっぱり持つわ。私のリュックサックに少し渡してちょうだい」
「大丈夫。これくらい平気だよ、セダ」
「でも……」
西の森人亭の女主人は何か言うわけでもなく、朝の掃除をしながら、その様子を見てニコニコしている。
「じゃ、じゃあ、荷物が軽くなるおまじないをかけてあげる。じっとしててね」
「本当!? そんなことも出来るんだ、凄いね!」
目を輝かせてじっと見つめるジェサーレに対し、セダはどこか気まずそうに魔法辞典をめくり始め、やがて終わりの方のページを見ながらうんうんと二回、頷いた。
そして、ジェサーレの後ろに回り込んでリュックサックに手をかざし、唱える。
「小さき者よ、彼の者に助力を。フテラ・ネライゾン」
「わ! 本当だ、少し軽くなった! ありがとう!」
「ど、どういたしまして」
「ところでセダ!」
ジェサーレが後ろのセダに話しかけようと勢いよく振り向いたせいで、危うく重たいリュックがセダの体に直撃するところだった。
いつもなら「危ないじゃない!」とカンカンに怒りそうなものだが、荷物をたくさん持ってもらっているためか、怒らず、普通に返事をする。
「そんな大きな声を出さなくても聞こえてるわよ。それで、どうしたの?」
「言い忘れてたことがあったんだけど、昨日、このリュックサックを買ったときにお店のおじさんが言ってたんだ。木霊の森に住んでいるイェシリアダン族には、入っちゃいけない場所があるんだって」
「そう。……それはあからさまに何かありそうな雰囲気ね。イェシリアダン族の人に聞けば教えてくれるかも」
「僕もそう思うんだ。だから最初はイェシリアダン族の集落を探そう」
「そうね。そうと決まったら、早く出発しましょう。乗合馬車がないから、暗くなる前に集落に辿り着かないと」
「うん!」
「わふん!」
オルマヌアーズの東門を出た二人と一匹は、そのまま森の中を突き抜けているような、比較的幅の広い道を歩いた。
少し涼しくて道の幅は広いが、それでもこれまでの馬車道とは違って、下には草がたくさん生え、木の根っこででこぼこしているところも多い。
しかも、イェシリアダン族の集落まで続いてくれるのではないかと期待したこの道も、じきに細くなって、周りは二人の何十倍もありそうな大きな木と、草ばかりになってしまった。
それでも何とかなるさと、二人と一匹は道なりに歩くことを止めなかったし、ジャナンに至ってはとても嬉しそうに歩いていた。
そうして途中、何度か休憩をしながら二時間ほど歩いた頃だろうか。
道の両脇に二本の柱が見えてきた。
明らかに切断するなどの加工がされたものであり、緑色の絵の具のようなものも塗られている。
「セダ、あの柱はきっとイェシリアダン族のものだよ。集落が近くにあるかも知れないね」
「うん」
ジェサーレが心配していた通り、セダはやはり彼よりも体力が少なくて、もうすっかり無口になっていた。
だから、この辺りでまた休憩を取ろうとジェサーレは考えたのだが、そのとき、上から何かが落ちてきた。
「うわあ!」
「きゃ!」
ジェサーレとセダは、最初、それが何なのか分からなかった。
けれど、もがいても一向にどかせないそれは結構な大きさがあり、そして格子状になっていた。
となれば、ジェサーレの頭に思い浮かぶのは網であり、この網に使われているロープは太くて、重い。
二人と一匹はなんとか脱出しようとやたらめったらに体を動かしたのだが、それでも抜け出すことは叶わず、遂には木の裏などから次々と現れた、緑色に顔を塗った集団に囲まれてしまうのだった。
その集団は一言も喋らなかったが、網をどけてあっという間に二人と一匹の口を塞ぎ、手を縛ったあと、再び網の中に入れて運び始めた。
こうなってはジェサーレもセダも、そしてジャナンも身動きをすることすら難しく、自分たちはこれからどうなってしまうのだろうと、怯えながらじっとしていることしかできなかった。
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