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正義に合わないから、野盗団の頭目も排除して、自分が成り上がった。
「幸せなど幻想だ。ええ加減……目ぇ覚ませや」
ヤマガミのように、両親を失ってもなお家族にこだわる人間がどうしても理解できなかった。
バルマンはようやくヤマガミと対峙する機会を得たのだ。
その目は憎悪に満ち、狂気が宿っていた。
両陣にらみ合いが続くなか、バルマンの陣からひとりの漢が出てきた。
ヤマガミの陣営から数本の矢が飛んだが、馬上でこともなげに叩き落とす。
これが頭目のバルマンだった。
「ヤマガミ、出てこい! 一騎打ちといこうじゃないか!」
バルマンの声はよく通った。
ヤマガミは馬を進めようとしたが、剣士が制止する。
「罠だ! あいつが一騎打ちなんかするはずがない!」
しかしヤマガミの視線は、バルマンがしている首飾りに釘付けだった。
ヤマガミは声を震わせた。
「その首飾りは……」
「昔な、気に入らねぇ行商人を殺ったときの記念品さ!」
その言葉が終わらぬうちに、ヤマガミが雄たけびを上げて飛び出した。
――ちッ!
剣士は舌打ちをして、矢継ぎ早に指示をする。
「弓は後方を狙え! ヤマガミを連れ戻せ! バルマンはわたしが仕留める!」
馬を急がせる剣士の目の前で、ヤマガミが数本の矢を受けて落馬するのが見えた。
思った通り、バルマンの背後に控えていた連中が、地面でもがいているヤマガミを押し包もうとする。
剣士は初めて己の剣を抜いた。
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