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その間に、山砦の隠し道から医者が到着した。
「――応急処置がよくできているので、特に私がすることもありませんでしたわい。さすが、イ……」
医者が剣士の名を呼びそうだったので、剣士はゴホンとわざとらしい咳払いをして、医者に注意する。
「……いやいや、見事な腕前で……」
医者は砦の連中に見られぬよう、こっそりと舌を出して、無理やり言葉をつなげる。
「このまま寝ていれば問題ないでしょう。念のため飲み薬を置いておくので、熱が出るようなら服用なさい」
まだ戦闘の最中でもあるので、用事が済むと医者はもと来た隠し道をさっさと帰って行った。
三日目の朝、街道の遠くで土煙のあがるのが見えた。
ウトゥが護衛隊たちを率いて駆けつけてきたのだ。
剣士の視線の先では、バルマンがまだ砦の麓で陣幕を張って、戦況を眺めている。
剣士は護衛隊が近づくタイミングを見計らい、もう一段退いた。
これで防壁も最後だった。
もうすぐ砦を落とせると思ったバルマン勢は一気に駈け上がってきた。
結果的にバルマン勢は本隊だけが取り残されたかたちになった。
そこへ、ウトゥらの護衛隊が三隊にわかれて斬り込んだ。
まず二隊がバルマンの傍まで楔のようにくい込み、なかを通れるように押し分ける。
空いた空間にウトゥが突入するのだ。
頭目を狙う護衛隊に、バルマンの本隊が最期の抵抗を見せた。
ウトゥは相手の斬撃をいなしつつ、突き返す。
攻守一体の剣技が、押し寄せる敵をつぎつぎに倒していった。
ウトゥの鬼神にも似た働きに、バルマンは逃げる機会を失った。
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