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「俺はな、親という奴にひどい目に遭わされたんだ! 幸せそうな奴を見るとムカつくんだよ!」
父は、後ろ手に少年を乗せた馬の尻を叩き、馬を駆けさせた。
あとで思えば、父が槍の柄を握っていたのは、逃げる少年に槍が投げつけられないようにするためだったのかもしれない。
おかげで、少年だけは近場の村に逃げおおせ、そして生き残った――。
羅秦国の王都守護庁の長官代理であるイカルのもとに、剣術仲間であるウトゥが訪れた。
王都守護庁は、禁衛軍と国内の治安機関を所管する部署だった。そこの長官代理となれば、治安機関の実質的なトップだった。
イカルとウトゥは御光流剣術の同門だった。
ウトゥの方が年上で、若干年齢に差があったが、入門当初から仲の良いきょうだい弟子だった。
御光流では、三日三晩ぶっ通しで剣術の仕合をして最後まで立っていられたならば合格という、通称『百人抜き』という荒修行がある。
この際、剣の捌きが冴えていれば、「剣聖」という声が自然と湧き上がってくる。その声が満場一致であれば、『剣聖』と称される剣士になる。しかし、ぎりぎりで凌いでいるようならそのような声はあがらない。
イカルもウトゥもこの百人抜きに挑戦し、イカルは『剣聖』となったが、ウトゥは百人抜きを達成したものの、「剣聖」の声はあがらなかった。
その結果、ウトゥは修練場を去り、隊商の護衛隊で己の剣を活かす道を選んだ。
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