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いまウトゥは西域諸国と交易する隊商の護衛隊の隊長を務めるまでになったが、最近ロウライとウマイツの街道筋の治安が悪くて往来できないほどだという。
羅秦国の仕組みでは治安部隊の人員の制限から、治安部隊の配置は都市部だけに限られており、それ以外の小規模の町や村は自主防衛組織でかろうじて治安を維持している現状だ。
つまり、主要な交易街道とはいえ、都市と都市を結ぶ間の区間は無法地帯といってよい。
ウトゥが訴えるまでもなく、イカルは常々この無法地帯を何とかしたいと考えていた。
「お前が直々に来るとは、よほどのことだな?」
イカルは久しぶりにあったウトゥとの再会を喜んだ。
なにしろ、ウトゥは突然、修練場からいなくなったのだ。
イカルとしては、事前に何の相談もなかったことをひどく寂しく思っていた。
久しぶりに見るウトゥの頭は見事に禿げ上がっていたが、太い首と日焼けした逞しい肉体にとてもよく似合っていて、姿を見るだけで信頼できる雰囲気を醸し出していた。それでいて、白い歯を見せて笑えば、えくぼができてとても愛嬌があった。
詳しく聞くと、以前からいるヤマガミ党に加えて、新興勢力のバルマン党が勢力を急速に拡大しているらしい。
隊商はそれぞれの勢力からの攻撃を防ぐ一方で、ヤマガミ党とバルマン党の抗争も避けなければならないという。
「ヤマガミ党の方は密貿易をしている隊商や私腹を肥やしている隊商を襲撃するが、無防備な旅人には手を出さず、むしろ保護してやっているほうだ。悪党なんだけれど、どこか憎めないんだよな……」
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