無法者の大地 - 山神の誓い - (外伝3)

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 剣士が山砦に住む連中と親しくなるのに、それほど日数を要さなかった。  気さくで話しやすいし、教養があって山賊たちの知らないことを色々教えて くれる。  自分たちが山賊であることを少しも蔑んだ眼で見たりしないので、剣士の評判はすこぶる良い。  剣士から願わなくとも山賊たち自らが案内役になり、山砦のあちこちを連れ歩いた。  山砦の山頂には貯水池があった。  山砦は山々の連なりの端に位置しており、隣接する高山から樋を渡して、湧水を山頂にまで導いているのだ。 「ですから、この山にいれば水に困りません。贅沢にも風呂にだって入れます」  と案内役の山賊が説明した。  風呂に入る習慣があるので、この山では病人も少ないという。  思いのほか綺麗好きな連中だ。  山砦のある斜面とは反対側、ちょうど山の裏手に回ってみると、斜面は緩やかで、その先には遥か彼方まで湖面が広がっていた。 「あれは、鏡明湖(きょうめいこ)だね」 「そうです」 「ところで、あれは何だい?」  山の斜面に、幾筋もの石が積み上げられて、その高さは人の背丈の倍ほどもあった。 「あれは、湖賊(こぞく)を防ぐための防壁です」 「湖賊だって?」 「そうです。この斜面の麓に湖賊の住む港町がありましてね、そいつらがときどきちょっかいをだしてくるんです。攻めてきたらうっとうしいんで……」 「最近はどうだ?」 「ここのところ、二、三年ほどは攻めてきませんね。あっちはあっちで、仲間同士の争いがあるみたいで、こちらに手を出してくる余裕はないみたいです」  野原に野盗、山には山賊、湖に湖賊……。
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