無法者の大地 - 山神の誓い - (外伝3)

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 ――この国には、無法地帯の、なんと多いことよ。  剣士は思わずため息をついた。  剣士の憂い顔を案内役の山賊が不思議そうに眺めていた。  剣士は、密貿易をしている隊商をヤマガミたちがどうやって判別しているのか知りたかったが、直截的に聞いてしまっては疑われると思い、黙っていた。  剣の腕を買われたが、そのうでを振るう機会もなく、幾日か過ぎた。  ある日、ヤマガミたちと襲撃に同行する機会に恵まれ、そこで簡単に判った。  なんのことはない、犬を使っているのだ。  密輸品の臭いを覚え込ませた犬を先に走らせて、騒ぐようなら襲い掛かるという単純な仕組みだった。  剣士が感心したことに、ヤマガミは手にした密輸品のうち麻薬のような中毒性のある物はすべて処分していた。 「どうして自分たちで使わないんだ? 売ったら相当な金になるぞ」と、剣士はヤマガミに尋ねたことがある。 「こんなもの精神を壊すだけだぜ。俺様はイカれた人間が大嫌いなんだ」  とヤマガミは吐き捨てるように言った。  剣士が山砦の生活に馴染んだころ、山麓の村が襲われているとの報が入った。  ヤマガミが手下を引き連れて助けに向かうと言う。  剣士もヤマガミと並んで馬に乗り、現地に向かった。  山賊たちの幹部クラスは馬に乗っていたが、ほとんどの連中は徒歩だった。  必然的に前後の間隔がかなり開いてしまう。  救援に向かう途中で、逃げてきた村人に様子を聞くと、襲撃者のなかにバルマン本人がいるという。  であるならば、バルマン党の本隊に違いない。  馬で先行しているヤマガミたちは数の上では不利かもしれない。
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