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それを承知で道を急いだ。
村に着いたときには、夕闇が迫ろうとしていた。
バルマンたちは村の一軒一軒に押し入り、家のなかを荒らしまわっていた。
人の姿を見れば、情け容赦なく凶器を振るう。
血の海という表現が大げさでないほどの惨状が目の前に広がっていた。
ヤマガミたちが到着したのを見て、バルマン党が防御の陣を敷いた。
さすがにバルマン直々が率いる本隊だけあって、統率力が高い。
結果的にここがヤマガミとバルマンの、本人同士が相見る初めての場となった。
バルマンは相手の中にヤマガミ本人がいると気づくと、黄色い歯を見せ、ニタリと笑った。
ようやく自分の願いがかなったと思うと同時に、過去の記憶が蘇った。
バルマンは貧しい農村の息子だった。
幼いころから厳格な父親に辛い労働を強いられた。
足蹴にされて土に埋まるように頭から突っ込むなど日常茶飯事だった。
父に逆らえない母に、守ってもらった記憶もない。
「俺が幸せを感じたことなど一度もなかった……」
ある日、気が付くと血糊の付いた刃物を両手で掴んでいた。
手の震えが止まらず、怖くなって、転がるように家を飛び出した。
彷徨っていると、野盗の連中と出会った。彼らはバルマンのしたことを褒めてくれた。
ようやく自分の居場所を見つけたように思えた。
野盗団で、バルマンは生きるために無慈悲に振る舞うことを学んだ。
バルマンの心の底には、他人の幸せが許せないという歪んだ感情が常に渦巻いていた。
バルマンは、自分の正義の外で自由に生きている連中を許せなかった。
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