10

1/1
前へ
/11ページ
次へ

10

「嘘。わたし知ってるよ。本当は、わたしと別れて、あの子と一緒になりたいだけなんでしょう?」  何を言ってるんだろうと思った。だけど、彼が遠くに行ってしまうと思うと、平静を保てなかった。  わたしと別れて、あの子と一緒になって、遠くの実家に帰ってしまうなんて。  わたしの目から、再び涙が溢れ出した。 「あの子?」  だけど、敏志は意味が分からないようだった。 「敏志と同じ、教育学部の……」  わたしは両手で頬の涙を拭いながら、何とか敏志に伝えた。 「ああ」  そこで、ようやく敏志は気付いたようだった。 「違う違う、彼女には教員採用試験のことを教えて貰っていただけだよ」  敏志が再びリュックからハンドタオルを出して、わたしの涙を吹いた。 「それに彼女は、この県で採用されてるんだから、一緒に着いて来れないよ」  へ?あ、そうか。そうなんだ。え、じゃあ…… 「その子のこと、好きなんじゃないの?」 「何でそうなるかなぁ」  そう言うと、敏志はフウっと溜息を漏らした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加