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 なんだ。そうだったのか。  わたしは、振られると思って、泣いていたことが急に恥ずかしくなった。  わたしは敏志が持っていたハンドタオルを奪うと、それで顔を覆い隠した。 「由美」  敏志が優しくわたしの名前を呼ぶのが聞こえた。 「どうするかは、由美が決めればいいから」  敏志の声が耳元で聞こえる。 「どうして?」  わたしは顔を隠したまま敏志に尋ねた。 「だって、遠距離になるし、就職浪人になるし、教員採用試験の勉強もしなくちゃいけないから、なかなか会えなくなると思う」  敏志は一息に話した。 「だから、由美が決めて」  敏志は、わたしのことが嫌いになった訳じゃなかった。そのことが嬉しかった。  離れ離れになるし、会える時間も今よりうんと減るだろう。  だけど、別れることを思えば、ずっといい。神様がわたしに、もう一度チャンスをくれたんだ。 「会いに行くから」  わたしはハンドタオルの下から敏志に伝えた。 「え?」  だけど、敏志には上手く伝わらなかった。わたしはハンドタオルを外すと、敏志の目をじっと見つめた。 「わたしが会いに行くから」  わたしは、もう一度言い直すと、敏志の唇に自分の唇を重ねて、長い長い口付けを交わした。 おしまい
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