6

1/1
前へ
/11ページ
次へ

6

 わたし達は、そのまま手を繋いで山を登った。大きな岩がある度に、彼はわたしを気遣いながら、引き上げてくれた。  わたしは、彼の優しさと温もりを感じながら、なんでもっと大切にしなかったんだろう、と今更ながらに後悔した。  付き合って三年。   一緒にいることが当たり前になっていた。  彼は、わたしにとって空気のような存在だった。いつの間にか、彼の優しさに甘えてばかりで、彼への気遣いを忘れていた。  彼の寂しさに、わたしは気付けなかった。 「ごめんなさい。わたし……」  言いたかった、ごめんなさいが、ようやく言えた。  だけど、彼は、もう……  わたしの目から次々と涙が溢れ出した。そして、涙は頬を伝い、登山道の石の上にポタポタと落ちていった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加