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 山頂は思っていたよりも開けていた。  枝を広げる木々もまばらで、三百六十度、下界を見渡すことが出来た。幸い山頂を訪れている人はなく、山頂にいるのは、わたし達二人だけだった。  わたし達は岩場の一つに並んで腰掛けると、黙ったまま、山頂からの景色を眺めた。  崖下からの爽やかな風が、二人の髪の毛を優しく撫でて吹き抜けていく。 「俺、実家に戻ろうと思う。そこで、教員を目指そうと思うんだ」  敏志は眼下に見える街並みに目をやったまま、おもむろに話し始めた。  え、教員にはならないんじゃなかったの?  それに、実家に帰るって、どういうこと?  わたしは心の中で思ったけど、口に出せなかった。彼の話を聞こうとしなかったのは自分だ。 「話って、そのことだったの?」  わたしは動揺を隠せないまま、敏志に尋ねた。膝の上で握り締めた両手が小刻みに震えた。  
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