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 敏志は、わたしの目を正面から見つめると小さく頷いた。   「就職活動をしていてさ、今一ピンと来なくてさ、俺、一体、何がやりたいんだろう、て考えたんだ」  敏志は再び眼下の景色に目を遣る。 「そしたらさ、教育実習の時に出会った子ども達の顔が浮かんだんだ」  敏志は子ども達のことを思い出したのか、笑顔を浮かべて話した。 「教員なんてブラックじゃん。いい話なんて聞かないよ」  わたしは今更ながら、敏志を説得しようと試みた。   「本当は由美に相談したかったんだ。だけど、忙しそうだったから。でも、よく考えたら、これ、自分で決めることだよなって」  そう言って敏志は、わたしの目をじっと見つめた。そして、優しく微笑んだ。  敏志の意志が固いことを、わたしは知った。
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