箒と煙草

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「ねえ、篠原さん」 「はい」  切り出したのは宇草だ。顔は見えないが声ははっきりと聞こえる。 「篠原さんって怪異局だよね」 「そうですね」 「まさか僕のこと記事にして特ネタとして世界に拡散してやろう、だなんて思ってないですよね」 「うっ」 「あ、もしかして図星?」  さてはこの人、本当に心が読めてしまうのかもしれない。魔法使いなら不自然ではない。 「そうはさせないよ」 「なんでですか!」 「おしえなーい」 「なんで……」  この手の人間は、こうなってしまえば本当に口を割らないことは、篠原の経験が知っている。 「僕に隠れて書いちゃおうなんてのもだめだよ」  少し思案に浮かんだこともすぐに牽制された。こういうときは、強気に出るべきだ。 「でも、書くのは俺の自由なんで、やらせてもらいますよ」 「ふーんそうかあ〜」  宇草は物憂げな態度で小さく上の方を眺めた。なにか言葉を探しているらしい。 「ま、僕は今から君を振り落とすこともできるけどね!」  暴力的で楽観的なその一文は、篠原を脅すには十分だった。もう、この人に逆らうことはできないのだろうか。 「誰にも言ったりしないですよね?」  思わずハイと頷いてしまいそうになった。せっかく手に入れた初めてのネタだ。そう簡単には手放せない。 「首振らないねえ。じゃあ頑張っちゃおうかな、口封じ」  口封じ。その物騒な言葉はすぐさま風に消え、大都会の真ん中で、二人にだけ響いた。  絶対に記事にしてやりたい男と、絶対にされたくない魔法使いとの戦いが今、始まる。 「ていうか、いつ下ろしてくれるんですか」 「いやもう終電ないよ」 「……」 「うち来なよ?」 「はい」
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