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魔法の一般家屋
何かしら魔窟のような、もしくは大木に穴を開けて住みよくしたようなものを想像していたが、宇草の家は一般的な一軒家だった。2階のベランダから侵入したことを除けば。
「さ、ここで靴脱いで」
「はい……」
さも当たり前のようにベランダの戸が引かれる。足もとにはいくつかの靴、室外機には箒が数本立て掛けられている。気分によって使い分けてでもいるのだろうか。
「今みんな寝てるから静かにしてね」
みんな寝てる……。どうやらこの人には家族がいるらしい。結婚しているとは思えないがどうだろう。時刻はもう0時を過ぎているが、篠原ならあと一時間は布団に入らないだろう。魔法使いは生活習慣が整っているのかもしれない。
今日はここに寝泊まりすることになるらしい。箒の先が帰り道とは全く逆方向を指し始めた時からそれは察していたが、どうにも覚悟できない。篠原自身、他人の家に泊まるのが久しぶりなうえ、それがよく知らない魔法使いの上司が家族と住む自宅なのだ。誰だって拒みたくなる。
袖を引かれてついていく。宇草からは、唇に人差し指を当てながら視線が送られてくる。やけにニヤニヤしているが、物音立てるなよということだろう。
部屋の対角線のベッドから人の気配が感じられる。いびきと呼ぶには小さいくらいの寝息だ。
ほんの細かな音にも敏感になりながら、二人はようやく次の部屋に入った。ホッと一息ついた宇草を見るに、ここが彼の部屋だろう。
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