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照明がつく。間取りも家具も何ら違和感ない、普通の人間が住んでいるような部屋だ。その場の都合で人を招けるのだ、整頓もされている。
「まあ座ってよ。お風呂沸かしてくるね」
「ありがとうございます」
中央の低い机のそばに座布団が置かれた。宇草がもとのドアから部屋を出ると、篠原はゆっくりと腰を下ろした。
一人になると落ち着かない。ひとまず宇草のことに思いを馳せてみる。
魔法使いなど信じたくもない。その確固たる証拠にまたがってここまで来たのだが。あの箒にジェットエンジンでもついていなかっただろうか。
とにかく、今の篠原にとって重要なことは、なんとかあの男のことを記事にしてひとヤマ当ててやることだ。今からなら空中で振り落とされる心配もない。
「ただいまー」
不意に死角から声が聞こえた。急な出来事に変な声を出してしまう。なんで別の扉から出てきたんだ。
「びっくりさせちゃった?」
「いや、そんなことないです」
つい見栄を張る。心臓が止まりかけたどころかちょっと止まったが、そんな事は言えない。
「そう。お茶と着替え持ってきたよ。お兄ちゃんの部屋からパクってきた。僕のじゃサイズ合わないでしょ」
兄がいるのか。こちらのドアから出てきたあたり、ベランダがある方にいるのは別の家族らしい。顔も見たことがない人の服を着るのは申し訳ないので、丁重にお断りしておいた。
「シャツで寝れる?」
「はい」
「じゃあベッド使おう」
「それは宇草さんに申し訳ないです」
「二人で寝たら良いじゃん」
「じゃあ一人で使います」
「えまってよ」
最終的に、篠原が床で寝ることになった。
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