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都合のいい罪悪感
僕だけが浮かれていたのだと思う。軽い気持ちで、都合のいいようにばっかり捉えていて、藍那の何気ない言葉に自分勝手な意味を求めた。
だから、その彼女の言葉が半ば呪いみたいに僕の中へ残ったことは、ただの自業自得なのだと思う。
のうのうと生きて、何の意味も見いだせないまま高校生活が終わりそうな、3年生の冬。大学への進学も決まっていて持て余した、きっとよくあるモラトリアムの最中に。僕は今、特に当てもなく真夜中の道を歩いている。
吐く息は白くて、指先はしびれそうなくらいに冷たくて。それだけ。
自分自身で、何を探しているのかも分からないまま、ただ、歩く。見知った景色の、見慣れない時間。なんだか心細く感じるのは、幼いころに遅寝を叱られたような、もう所以もない罪悪感だ。
もしくは単純に、こんな夜中に一人でいることを、淋しいだなんて思ってしまっているからだろうか。なんとなしに空を見上げれば、星明かりすら見えないような曇り空。なんだか今この瞬間が、ひどく曖昧だ。
藍那が、亡くなってしまったのだという。
それに対して僕は、何をどう思えばいいのか、ずっと迷っていた。親しかったというのは微妙な距離感。他の人から見れば、特別な何かを思う理由もないような。
──あと一回だけ、会えるよ。
だけど、そんなささいなやり取りを僕は、まだ忘れられずにいる。
息を吐く。元から曇っている空が曖昧に濁る。まるで、生きている実感を忘れそうになるのに。
──一回だけ。でも、絶対に会いに行くから。
その約束は、僕だけが生きているから叶わない、らしい。夢でも見ているような心地で宛もなく歩く。
藍那のことは、実感どころか受け止め方すら見つけられずにいる。こうして、宛もなく夜に出歩いてしまうくらいに。だけど。
再会は叶わなかったのだから。
僕が真に受けてたほど、藍那にとって真剣な約束じゃなかったなら、いいな。もう何度目か、そんなことを思う。
現実は。
いや、それを現実と呼んでいいのかは分からないけれど。とにかく、なんとなく視線を前に向けた、その先には。
明かりもまばらな暗闇の中に、なぜか見て取れるほど浮かび上がる、見覚えのある顔。そして。
『……久しぶり。元気にしてた?』
声じゃないような、声。立ち止まった時に高鳴った足音に混ざらない、響かない声。
聞き覚えのある声。僕も、目の前の子も、まるで生きている実感のないような心地。夢のような。
「皆家……さん?」
呼び方にも迷うような間柄。だけど、間違えない程度にはハッキリと覚えている。ささいな約束を交わした。
叶わなくなったはずの。それなのに、今、言葉をかわして。
『約束通り。ちゃんと、会いに来たよ』
いつか見た覚えのある、微かな笑み。記憶そのままの彼女、藍那が僕の前にいた。
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