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「十一時に渋谷駅だろ。大丈夫。遅れない」  そう言って電話を切り、十時三十分に部屋を出る。ケンイチのことを考えながら待っていると、スクランブル交差点をわたってマミがやってくる。その日の服装はノースリーブのワンピース。ネット通販で購入して、昨日の夜に届いたものをさっそく着てきたと言っていた。この服はすでに七十二回、目にしている。 「かわいいじゃん」  まずは新しい洋服を褒める。以前、ケンイチのことで頭がいっぱいになっていて彼女の新しい洋服についてふれなかったためにマミが激怒し、その日のデートの展開がボロボロになった経験があるのだ。 「えへへ。ありがと」  喜怒哀楽の激しいマミはソウゴの手をとり、急ぎ足でカフェに向かった。今ごろ、ケンイチはガソリンスタンドのアルバイトをしているのだろうか。表参道のカフェに入ってもソウゴはうわの空だった。 「ねえ、ちゃんと私の話聞いてる?」  十食限定のふわとろオムライスを食べながら、マミが怒る。 「ごめん。ちょっと考えごとしてた」 「考えごとって、なに?」  目を吊りあげたマミがオムライスにナイフを通す。しかし、そんな顔をされたところでソウゴはこの状況を話すことなどできない。それに、この問題はソウゴが一人で解決しなければいけない問題でもあった。  今から七年まえ。中学時代、ソウゴはいじめにあっていた。 「どかーんっ!」  通学路を歩いているだけでクラスメイトが背中にドロップキックをしてくることなど日常茶飯事だ。ソウゴはその場でたたらを踏む。 「あー、くそっ。五点かよ」  坊主頭のクラスメイトが悔しそうに言う。ソウゴは振り返らずに歩き出す。その瞬間、さらなる追い討ちが彼を襲った。 「おりゃあ!」  背中に二度目の衝撃が走り、今度は顔面から倒れた。 「よっしゃあ! 十点ゲット!」  金髪のクラスメイトが倒れるソウゴのうしろでガッツポーズをする。ソウゴが受けるダメージによって得られるポイントが変動し、昼までに一番多くの点数を獲得できた人物が他の参加者からジュースをおごってもらえるというシステムだ。 「あー、くそ!」  坊主頭が悔しがる。このゲームという名のいじめでソウゴが怒ることもなければ、仕返しをすることもなかった。しかし、これがいじめっ子たちにとってのゲームである以上、そこには勝者と敗者が存在する。そして、敗者の怒りやフラストレーションは、すべてターゲットであるソウゴに向いてしまう。 「おりゃあ!」  ジュースをおごらされた面々から放課後に公園に呼び出されては、タコ殴りにされる。そのなかにはなぜかその日一番ポイントを稼いだ金髪もいて、その他五人と一緒になってソウゴに暴力を振るっていた。
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