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苦い思い出
小さい頃から金魚が嫌いだった。
なぜなら、金魚掬いで一回も金魚をとれたことがないから。
悠々と泳ぐ姿に憧れて何度チャレンジしたかわからない。でも、あの小さい生き物は儚い尾ひれをひらひらと揺らして、バカにしたように俺の手をかわしていく。
幼稚園、小学校、中学校…
高校にあがる頃には興味を失った。
けれどある日の予備校の帰り道、路面に店を出す怪しげな占い師に引き留められた。
「お兄さん、金魚掬ったことはあるかい?」
夏の夜だった。
祖母と同じくらいの年齢だろうか。ジメジメした夏の空気と彼女のしわがれ声が纏わりついて不快だった。
「…ありませんけど」
「人生で掬える金魚の数は決まってるんだ」
「は?」
「あんたは1回。今までにないなら、あと1回。1回きりだよ、覚えておきな」
占い師の戯言を信じたわけではないけれど、それ以来なんだか気味が悪くて金魚掬いは避けている。
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