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進藤刑事、挑まれる
「今井、様子はどうだ?」
現場に着き、先に到着していた刑事に声をかける。今井は中堅の刑事で、最近結婚したばかり。円満の秘訣は?とことあるごとに聞いてくるが、俺に答えられるわけがない。
「進藤さん、お疲れ様です。いま施設の運営会社と話してます。来館者数は正確にはわかりませんが、今日から六階の催事スペースで『りちぇる』のポップアップが始まったそうで、平日といえど人出は多そうです」
「りちぇる?」
「進藤さん、知らないんすか? 若者に人気のアクセサリー作家ですよ! 最近はインテリアのプロデュースとかもしてて、俺も彼女に…」
「あー、ハイハイ。わかった」
同行していた新人が割って入ってくる。関係のない話が続きそうで、俺は早々に遮って今井に視線を向けた。
「で、犯人の目星は?」
「いえ全く。公衆電話からの着電だったようで、今周辺の防犯カメラをあらって怪しい人物がいないか確認しているようです」
「そうか…俺はちょっとぐるっと、周辺を見てくるよ」
今井の肩にポンと手を置き、俺は施設の外周を歩き始める。その間にも、妻から連絡が入っていないか携帯を確認するも、未だに未読のままだった。
お喋りに夢中になっているだけならいいのだが…。
一抹の不安がよぎる。いっそ、妻が言っていただ店まで行ってみようか?
いや。
俺は刑事だ。私情を優先するわけにはいかない。まずは周辺を確認してから行っても遅くはないだろう。
切り替えるように頭を振り、それから一歩踏み出す。
「怪しいものはなさそう…か? ん?」
不審物がないかを見回しながら歩いていると、植え込みに携帯電話が置いてあるのを見つけた。
「落とし物か?」
近づくと、着信音が聞こえて、思わず肩を震わせる。持ち主が探しているのだろうか。だとしたら、返してやらねば。
俺は【公衆電話】と表示された画面をタップし耳に当てた。
「もしもし」
『ああ、よかった。拾ってくださった方ですか? そのスマホの持ち主です。えーっと、今どこに…』
若い男と思われる声だった。
「四丁目のサウスタワーです。植え込みに置かれてましたよ」
『ちなみにあなたはなぜサウスタワーに?」
「は?」
変なことを聞くやつだ。
『映画? ショッピング? ランチ? …それとも、何かお探しですか? その場所は、意図的でないと行かない場所ですから』
含みのある言い方に、背筋がぞわりとした。
「…お前、誰だ?」
『ゲームをしませんか?』
「ゲーム?」
『簡単な宝探しゲームですよ。あるモノを見つけて下さったらいいんです』
「…爆発物を仕掛けたというのは本当か?」
『本当です。だから、ゲームをしようと言っているんです。爆発は時限です。ただし、サウスタワーの中にある、あるモノで止めることができます。それを見つけることができればあなたの勝ち。見つけられなければ…』
”ドカン”と笑いを含んだ声で男が言う。唇を噛むが、ひとまずはこの男の言う通りにした方がいいだろう。相手を刺激しないことが第一だ。
「わかった。どんなモノなんだ?」
『それを言ったらつまらないじゃないですか!』
「なにを目指せばいいのかもわからないまま探せっていうのか?」
『制限時間は六十分。これだけ時間をあげるんですから、じゅうぶんでしょう。頑張ってください』
からからと嘲笑うかのような吐息が電話口から聞こえた。
『あっ、そうだ。ただの宝探しではつまらないので、観衆を入れることにしました。どうぞ楽しんでくださいね』
ブチっと通話を切られ、「観衆?」と疑問符を浮かべたところで「進藤さん!」と今井の声が聞こえて振り返った。
「どっかから情報が漏れたみたいです。メディアが集まってきてますよ。よくわかんないYouTuberみたいなやつとかも配信始めてます」
携帯電話を掲げられ目をやれば、たしかに【緊急!ライブ配信!】とタイトルが付けられた動画が配信されており、SNSでも【サウスタワーに爆破予告か】と速報ニュースが出ている。
「一体だれが…」と今井が悔しそうに呟いた。
「犯人だよ」
俺はため息をつきながら、手に持っていた携帯を今井のほうへ放り投げた。
「犯人?」
「いましがたその携帯に電話がかかってきた。犯人が置いて行ったものみたいだ。宝探しゲームだとよ。爆破は時限、制限時間は六十分…いやそろそろ五十五分くらいかな。施設内のどこかに、止めるためのスイッチがあると言っていた」
「時限?! 館内のどこか?! それってどこなんです? スイッチってどんな??」
「俺もわからん。仕方ないだろ、とりあえず人海戦術で探すか…念のため来館者の避難も始めないと。それとその携帯、調べに回しとけ」
「はい!」
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