終わらない迷宮の中で

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母親の胸には、重石が押し付けられたような息苦しさが広がり、その重圧が全身にのしかかっていた。 彼女の名前はサラ・レイモンド、世界的に知られる天才科学者であり、数多の不可能を可能にした発明家であったが、その日、彼女は母親としての無力さを痛感していた。 娘のエミリーが反社会的組織ブラックサンダーに拐われ、敵の手中にあるという事実は、全ての計画を狂わせ、彼女の内なる山を巨大にした。 サラが警察組織への全面協力を公表したため、サラを誘き出して抹殺するのが目的だろう。もし娘が殺されていたなら、サラは死をも顧みず、組織の壊滅を目指して暴走していただろう。サラを盲目的な復讐者、手負いの獣に変えないための配慮が、ブラックサンダーの冷徹な計算を如実に示していた。 だが、サラはただの母親ではなかった。サラの頭脳には、常人には想像もつかないほどの可能性が広がっていた。 組織の本拠地は山脈の中腹に位置していた。それは単なる地理的な位置ではなく、象徴的な意味を持っていた。サラにとって、その山は彼女が動かさなければならない山だった。その山を越えなければならないと決意していた。
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