あと一回もう一回

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「あと一回!もう一回!」 ずっと腕を掴む君に、困り顔になっているだろうなと思いながらも、内心ちょっと嬉しい僕。君がこんなに好きになってくれるなんて。 将棋を教えてからというもの、ずっと指し続けている。 勝って負けて白黒白黒。 ノートがオセロ盤に見えてきて、あえてそんな風に作りはじめる。 そうこうしているうちに、オセロを始める僕たち。囲碁に移り、スマホゲームで土地取り合戦をし始めて、こんなのもあった!と、詰将棋を始める君。そんな君の隣で僕は中継を見る。何それと覗き込む君に、プロの人たちが指している将棋を観戦してる、と見せると、将棋ってプロいるの?僕もなれる?とキラキラした視線をスマホに向ける。そんな君、昨日はのび太くんになりたいと言っていた。明日は何になりたいのだろう。 「あと一回!もう一回!」 気づけば、君はママのところで言っていて、さっき食べたでしょと怒られている。僕も食べたいアイスクリーム。そういえば、僕もよく言っているなとぼんやり思う。 「あと一本。もう一本!」 一日一本でしょと怒られ恨めしい気持ちで冷蔵庫のドアを閉める僕は、君と一緒だよと、君の頭をポンポン撫で、もう一回やろと、リビングに戻りながらかつての僕を思い出す。もう一回過去に戻れるとしたら、どこで僕は何をするだろうと。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加