臆病な殺し屋

大成功のドラマ

　今度こそ！！
　愁田はベランダの手すりから身を乗り出した。

　その瞬間、
「はい、カット！」
　大きな声が響いた。
　監督はモニター画面で確認すると、
「オッケーです。以上のシーンで『臆病な殺し屋』の撮影終了です」と言って、愁田役の鉄(くろがね)に声をかけた。
「それにしても鉄さん、ベランダで懊悩(おうのう)する愁田役の感情表現素晴らしかったです。さすが演技派です」と、鉄を持ち上げる。

「いえ、すべて監督のご指導の賜物です」
　鉄は謙虚に爽(さわ)やかに監督に言葉を返した。

　鉄は「お疲れ様でした」とスタッフの一人一人に声をかけていく。

　部屋の中央まできた鉄の周りにスタッフたちが集まってくる。
　女優の桜木田(さくらきた)舞(まい)が花束を持って駆け寄ってきた。
　ベランダで声をかけてきた女性役の新人女優だ。
「鉄さん、お疲れ様でした。憧れの鉄さんとお仕事ができてとても嬉しかったです。ありがとうございました」
　そう言って笑顔で花束を差し出す桜木田舞の視線に熱いものを感じながら、
「ありがとう。舞ちゃん」と、鉄は柔らかな声で言って、魅惑的な笑みを浮かべて花束を受け取った。

　鉄はスタッフみなの顔を見ながら心を込めて言った。
「『臆病な殺し屋』のドラマが好評なのも、スタッフみなで心を合わせて取り組んだ結果です。そして無事に本日すべてを撮り終えることができました。本当にありがとうございます！　皆さまと一緒にドラマを作り上げていくことができ、本当に幸せでした。心から感謝致します。どうやらこの愁田役は臆病な私にピッタリ合っていたようです」

　スタッフから笑い声とともに温かな拍手が送られ、鉄は深々とお辞儀をしてスタジオを後にした。