裏の顔

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裏の顔

 鉄は撮影スタジオを後にすると駐車場に置いた自分の車に乗り込んだ。  運転席に座ると鉄は苦笑した。  ふっ、馬鹿らしい。  監督の指示通りに演技をしたが、あんな臆病な殺し屋などいるものか。あんな性格では殺しなどできるわけがない。  あと一回で殺し屋を終わりにしようなんて、主人公の気持ちが分からなくて苦労したよ。  たとえ地獄に落ちるとも、俺はそんな感情は持ち合わせていない。  助手席に置いたバッグの中にあるスマホの着信音が耳に届いた。  殺しの依頼だ。  私の裏の顔は殺し屋だ。  この仕事を決して終わりにしようなどと思ったことはない。  まして後悔など。    鉄の瞳は獲物を見つけた野生の動物のように鋭く光った。  バッグからスマホを取り出し応答する。 「はい」  ぞっとするほど冷たく凍るような声だった。  その顔は悪魔のような笑みを浮かべていた。     《了》  
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