とあるホームにて

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死にたい、死のう、死んでしまおう。 あたしはそう決めた。 理由は妻子ある男性と付き合って捨てられたから。 自業自得?そうだね、その通り。 派遣先の正社員の男性で優しかった。 ちょっと趣味の話しをしたら、好きな映画監督が同じだった。 「御茶ノ水での特別上映会、行きましたよ」 「本当ですか?あたしも行ってました!」 「『ただいま』の再上映、素晴らしかった」 「スクリーンで観れるなんて夢のようでした」 「携帯電話の無いような時代の作品を、観れるなんてね」 「劇場化されてない作品の上映も感動しました」 そうしてあたしたちは盛り上がっていった。 盛り上がって、恋が燃え上がって、ただ、それで終わった。 駅前のビジネスホテルで過ごした一夜は、なんだったの? 「一度だけ、楽しみたかった」 一緒のベッドで寝ることって、そんなもの? あたしにとっては夢の中を漂っていたのに。 広い背中を独り占めしたいって思ったのに。 「家庭を壊すようなことはしない」 だったら、どうして、あの夜......。
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