佐野部長代理と部員の久木田さん

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「ところで、なぜ私が呼ばれたんですか」  佐野さんがステージの端に腰を下ろしたところで、私も座って聞いてみた。 「後藤(ごとう)白水(しろうず)もバイトとかデートとか忙しいって相手にしてくんないし。この女子社員ネガ気味のキャラだから、アドバイスもらうなら久木田(くきた)を召喚しようかと」 「そうですか」  なんだかんだ佐野さんに観察眼があるのか、自分でも適任に思えた。集まりが不定期で、顔を合わせる機会があまりないサークルだが、後藤さんはこの間話したし、白水さんは先日おしゃれなワンピースの後ろ姿を見かけた。佐野さんと同学年の三年生だ。 「このサークルって、何人いるんですか。私と同じ一年生ももう一人いるって聞きましたけど、二年生はいないんですか?」 「部長が知ってんだろ」 「私、部長にも会ったことないです。どんな人なんですか」 「一言でいや美人だな。目鼻の作りもくっきりで手脚長くて舞台映えする。しょっちゅうどっか旅してるからなあの人。国外だったり、ろくに連絡つかないし、今どこだ。四年生のくせに進路どうすんだよな。の前に留年するんじゃないか」 「部員の数も知らずに、部長代理なんですね佐野さん」 「溜息つくなよ。とりあえずやれっていわれてやってるだけなんだから」 「この脚本、登場人物多いですけど、人数足りるんですか」 「あー。やれるかどうかは二の次っていうか。まあどうでも」 「はい? 演劇サークルとは、演劇をやるものなのでは」 「オレは好きにシナリオ書けばって言われて入っただけ。いろいろ空想したくて書いてるだけ。いっそ一生空想してたいんだけどさ。なぁどうやったら空想の世界で生きていけると思う? 異世界転生するしかねーかな」 「異世界転生が可能かどうかはわかりませんが、佐野さんがダメな大人になる未来は見えました」 「どこまでも冷静だな。氷の久木田だな」 「サークル勧誘もヤル気なさそうでしたもんね」 「久木田誘ったのオレだっけ?」 「佐野さんですよ。勧誘期間中ずっとサボってたから部長にしばかれる、このチラシ持って帰ってくれって一山全部渡されて拝まれました」 「そんな誘われ方でよく入ったな」 「こんなにヤル気ない人がいられる場所なら、いつか私が自然消滅しても誰も気にしないだろうと思ったので」
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