佐野部長代理と部員の久木田さん

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「お前こそどんだけヤル気ないんだよ。サークルはどうでもいいけど、オレたちは全大人が過ぎさりしそれを惜しむ『青春』真っ只中にいるんだぞ。積極的に満喫しろ」 「もう大学生ですけど。そのうち二十歳すぎても、青春なんですか」 「三十過ぎて振り返れば二十代も青いだろーよ」 「その理屈だと、四十から見た三十代も、五十からみた四十代も」 「そこまで先は知らんけど。部長みたいに満喫しすぎてオレのが先に卒業したらマジ笑うな」 「その言い方、つまり部長代理は卒業できる前提なんですね」 「なんだよ、尋問するみたいな顔で聞くなよ。そりゃオレも結構サボるけどさ。傷つきやすいんだぞ、見かけより」 「私はもともとこういう顔なだけです。後藤さんに聞いたとおりめんどくさい人ですね」 「オレのいないところでオレについての何を吹き込まれてんだよ」 「学食で偶然会ったので、ランチついでに世間話をしただけですよ。共通の話題と言えばサークルですから」 「ランチだとぅ? なんだそのうらやまシチュエーション、オレも出くわしたことないのに! なぁ、今度待ち合わせしようぜ久木田」 「約束したら偶然じゃないじゃないですか。節操ないのも本当ですね」 「ある。決して誰でもいいわけじゃない。ただ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるの教えを実践してるだけだ」 「さっさと脚本検討しましょうか。暑いんで」 「暑いは禁句だぞー」 「シナリオの中の話でしょう」  ヒロインの女子社員が出先から職場のオフィスビルに戻ると、フロアはなぜかもぬけの殻だった。たった一人、残っていた男性社員によると、突然奇病が広がったのだという。 「暑い、と言ってしまったとたんに、真っ裸(まっぱ)になって外に飛び出し、踊り狂うのだ! って何の罰ゲームですかコレ」 「罰ゲームじゃなくて奇病な」 「ジャンルとしてはコメディですよね」 「SFでファンタジーでときめきと人類愛も楽しめるスーパースペクタクルエンターテイメントを希望する」 「欲張りすぎて何を目指してるのかわかりませんけど」 「オレの言いたいことはただ一つだ。毎日毎日暑いんだよ! 酷暑とか猛暑とか周りで暑い暑い騒がれると余計暑い!」 「実に気持ちのこもった演技ですね」 「セリフじゃねえよマジな心の叫びだよ」 「エアコンの故障は仕方ないですよ」 「じゃあどっかカフェでもっていうのに、久木田ったらマジメさんなんだから」 「演じながら検討するのかと思ってたんですよ。お店じゃうっかり大きな声出せないでしょう。通しで読んでも疑問なんですけど、冒頭のこの銃は、どこから・・・」 「だよな。どこから出てきたんだろうな」 「なんでいきなり、取り残された二人が人類の存亡賭けた戦いみたいなことになってるんですか」 「最初はインパクト欲しいじゃん、こんくらい。意味深でカッコよく。それだけ」 「ダメ男(だめお)・・・」 「オレが? 違うよね? キャラでしょ?」 「作中のキャラもホントにダメ男ですよね・・・奇病にとらわれた人たち動画に撮って楽しんでるし・・・最低」
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