佐野部長代理と部員の久木田さん

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「マジレスきたコレ。心底軽蔑されてんな」 「だってその動画どうするんですか。マジゲスいです」 「このシナリオはフィクションです。劇中の行為はすべて空想であり現実で行われていません。久木田の反応、ヒロインまんまだな」 「この部分もまったく同じツッコミをしたい衝動に駆られました」  作中で男が叫ぶ場面を指さすと、佐野さんがドヤ顔で読んでくれた。 「オレはダメ男なだけで、ダメなわけでは断じてない!」 「すみません、主張の意味がわかりません。ダメ男な時点でダメなのでは」  脚本を見るまでもなくすらすらとセリフどおりに述べられた。 「オレは気に入ってるんだよな」  ドヤ顔は変わらず、結局理解できない。そうか。本人が気に入っているなら放っておこう。だがもう一つ。ここだけは気になった。 「一番の疑問は。なぜ、この人だけ暑いと言ってしまっても真っ裸にならずに済むのか、です」 「ダメ男ゆえの特殊能力だろ?」 「ですから、それはなぜ、ダメ男だと可能なんですか」 「えー。こいつダメだから仕方ないな的な・・・だめ?」 「不意に小首傾げて小動物のような瞳をされましても。納得いたしかねます」 「あるじゃんなんかそういうの、愛嬌っていうの?しょうがないな、こいつダメだからな、みたいなさぁ」 「ありますねそういうの、こいつダメだから言ってもムダだな、って諦められてるカンジ」 「諦めたの? 久木田、オレを見捨てたの? ・・・氷過ぎる・・・」 「大げさな」  さも苦しそうに胸を抑える動作に溜息が出るが、うっとうしがられることをものともせず、彼にとっては普通のリアクションらしい。 「ダメ男は役であって、佐野さんがダメなわけではないんですよね?」 「まだそこ抉るか。あぁそうさ、男だけ大丈夫な設定にしてみたけど、大丈夫な理由は思いつかなかったんだよ。聞かれなきゃ別にいいやって思って、そのままにしてんだよ!」 「そうですか、逆ギレですか。役を離れてもダメ男だったとそういうことですね」
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