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「フラれました」
「結局そうなるのね」
新学期早々、机の上に突っ伏していた美月はゾンビのような低い声でそう言った。
すっかり見慣れた光景だが、彼女の首に巻かれたマフラーの柄が以前とは変わっている。クリスマスのとき私とプレゼント交換したマフラーだ。
「新学期はドン底からのスタートだよ」
「あとは上るだけじゃない」
「てか聞いてよ。葉原くん彼女できたんだって」
「え、なにそれ」
「でしょ。実は今までも好きな人いるから断ってたみたい。それ先に言ってよーって感じ」
唇をとがらせて不満を漏らしながら美月は顔を上げた。
彼女の顔にはふっきれたような笑みが浮かんでいる。
「これでちゃんと諦めついたよ」
私はじっと美月を見つめた。
視線を感じたからか「大丈夫だよ」と美月は笑う。
「葉原くんは諦めたけど、自信がなくなったわけじゃないから」
「まあ美月がこれからいくら女度上げても関係ないもんね」
「そういうこと。いっそあんなに何回もフッたの後悔するくらい立派なサバになってやる」
「魅惑のサバ女爆誕」
「なんかおいしそう」
会話の意味のわからなさに私たちは声を出して笑った。
よかった、と心の底で安堵する。
ハッピーエンドではなくても美月はこれからも自分の足で歩いていける。そんな気がした。
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