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「瑠香って放課後ヒマ? 傷心クレープデートしようよ。あ、でも寒いから肉まんのほうがいいかな」
「なにそれかわいくない」
「いいじゃん別に。こういうのは何するかより、誰と行くかなんだからさ」
「よーし肉まんでもあんまんでもピザまんでもかかってこい!」
「なにその中華まん縛り」
短い相談の末、放課後はカレーまん巡りをしようと決めたあたりで美月はふと思い出したように「あ」と声を発した。
「そういえばいっつもわたしの話ばっかだけど、瑠香って好きな人いないの?」
「いないよ」
尋ねた美月に私は即答した。
不自然でないスピードで、声色に微塵の動揺も現すことなく、自分を騙して言葉を紡ぐ。
「恋愛より友達のほうが大切だから」
「あーそっちのタイプかあ」
納得する美月に私は頷きで援護する。
明るい道は決して険しくない道じゃない。けど、自分で選んだから進むんだ。
「美月」
「ん、なーに」
名前を呼ぶと、窓の方を向いていた彼女がこちらに振り向く。
声をかければ答えてくれる。笑いかければ笑い返してくれる。
それが簡単には得られないものだということを私は知っている。
「今日もかわいいね」
「ふふん」
自分の首に巻かれたマフラーを両手で持って謎のポーズを決める美月。
それを見て笑いながら自分の鞄からワインレッドの手袋を取り出す私。
いつまでも実らない私たちは、今日もクラスで一番の親友だ。
(了)
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