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「どうしたの美月。朝からスーパーに並んでるサバの真似なんかして」 「そこまで生気ないかなわたし」 「消費期限今日までって感じ」  美月は机に力なく突っ伏した姿勢のまま片手をひらりと上げて挨拶を返す。半袖シャツからすらりと伸びた白い腕が白鳥みたいだなとぼんやり思った。  彼女の後ろの席に座って、教科書を机にしまう。 「フラれました」 「負けには慣れたんじゃなかったの」 「さすがにフラれて一日目はダメージが残るよ」  今にも消え入りそうな声の美月の頭を撫でた。ありがと、とか細いお礼が返ってきて、私は罪悪感に襲われる。  慰めるつもりなんてない。ただ彼女の髪の感触を確かめたかっただけの、単なる下心だ。  こんな姑息な方法でしか私は彼女に触れられない。 「あーあ、今度こそ葉原くんと放課後ラブラブクレープデートできると思ったのに」 「先走りすぎでしょ」 「そのくらい妄想してなきゃ告白なんかできないって」  美月は魂まで抜けてしまいそうな長い溜息をつく。  息を吐く音が止まると、ごろんと頭を転がして天板に耳をつけた。自然と私は彼女の視線を追いかけてしまう。よせばいいのに。 「また見てる」 「見るのはタダだからね」  薄く笑う美月の視線には微熱が戻っていた。ダメージを与えられた相手に回復もされるなんて、これが普通の恋か。  普通。この言葉以上に美月を表す言葉はない。  天才でも凡人でもない。真面目に勉強して努力に見合った成績を収め、部活はすべてを懸けない程度にいそしみ、化粧は控えめだけど印象は明るく、同じクラスの男子に恋をする普通の青春女子高生。  まるで少女漫画の主人公みたいにキラキラしていて、そんな彼女に私は惹かれた。  だから私の恋の行く先は暗雲に覆われている。
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