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「美月」
「ん、なーに」
美月は顔をこちらに向けた。昨日より少しだけ赤みを帯びた目をとても愛おしく思う。
けど、その想いを伝えようとは思わない。
この感情が多数派じゃないってことくらいわかるし、告白することで今の関係に戻れなくなるのも嫌だから。
恋愛がすべてなわけじゃない。
この恋路がお先真っ暗なら、その道を歩かなければいい。他の明るい道を選べばいいのだ。
私は美月の一番の親友。それでいい。
「私と放課後傷心クレープデートしようぜ」
美月に私の言葉が届くと、彼女は机に横顔を乗せたまま「いーねー」と表情を緩ませた。
赤らんだ目は瞼の奥に隠されて、代わりに白い歯がこちらを覗く。
「うんうん、やっと太平洋のサバになったね」
「それ褒めてるの?」
「スーパーよりはかわいいよ」
「じゃあいっか」
美月は体勢を戻して大きく伸びをした。教室のチャイムが鳴る。
ぐっと上に伸ばした腕を下ろしたとき、ちらりとまた窓際の彼を見た。
「……やっぱりあと一回だけ、告白しちゃおっかな」
チャイムの音に忍ばせるように彼女はつぶやいた。
すごいなあと素直に思う。私はたった一回すら持て余してるのに。
「さすがアゲイン美月ね」
「ダサい名前つけないで」
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