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「フラれました」
「訊く前から答えないでよ」
私が教室に入ってきたことを察知した美月は机の上に寝そべったまま告げた。
今朝は少し肌寒かったからか、長袖シャツの上にグレーのベストを着ている。
「今回は自信作だったのに」
「自信作ってなによ」
「移ろう季節を感じられる風流で雅な告白を」
「告白コンクール出てる?」
「毎回ワンパターンだと飽きちゃうかなって」
「謎のサービス精神」
告白なんてドストレートが一番いいに決まってるでしょ、と喉まで出たが外には出せなかった。私が言っても薄っぺらいに決まってる。
誤魔化すように立ったまま鞄の中の教科書を机にしまった。
「で、なんでまた見てるの」
「目が勝手に見ちゃう」
「どうしようもないね」
私がそう言うと、美月は苦笑いを浮かべた。
話している間もその視線はずっと一点に注がれている。
「ほんとに。なんでなんだろ」
教室の喧騒に美月のつぶやき声が溶けていく。彼女の瞳がいつもより暗く濁って見えた。
「告白してフラれたら、自動的にこの気持ちも消えたらいいのに」
私は椅子を引いて自分の席に座る。
美月のセリフが喉の奥に苦々しく広がって、彼女の背後でバレないように俯いて唇を歪めた。
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