山の声を聞く

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 結婚した。子供ができた。妻と喧嘩した。子供が幼稚園にあがった。  俺は何かあるたびに山に向かった。その報告に。それは亡き父親の代わりのように俺は山に報告した。  その度、俺の至らないところも山に報告して反省し努力をした。  山と話し始めて何年も経ち、息子が大学受験に合格した三月、俺はまた山に話しに行く。 「息子が大学に受かったよ」 「それはおめでとう」 「でも、お山さん、ここに息子を連れてキャンプにも来てるのにその時 は話してくれないんだな?」 「話すのはお前さんだけだよ。お前さんが来なくなればまた長い間だんまりさ。気紛れはお前さんにだけだよ」 「それとさ、俺は父さんとここでキャンプして楽しかったよ。やっと分かった。もう言葉にできるよ」 「気付くまで随分かかったな」 「子供ができなけりゃ分からなかったよ。会話なくても、ここで世間から離れてキャンプも川釣りも星空を眺めるのも楽しかった。お山さんは、俺にそれを言わせるために気紛れ起こしたんだろ?」 「さてな、友達もそうだが、たまには父親面したかっただけかもな」 「うん。いいよ。それで。それで充分。生きていていいことはある。直接言ってこなかったのは親父そっくりだよ。また来るよ」 山は静かに黙る。山を下りていく俺の背中をじっと見ているのが分かる。いつか、遠い昔の親父のように。 「お父さん、魚釣れた!」  幼い俺の声が聞こえたような気がした。父親との思い出のこの山に。
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