守護霊

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「そっちへ行ったら危ないよ」  囁くような声に足を止め、僕は、曲がりが戸を右に曲がらず前進した。  少し遠回りになるけれど、一本向こうの道から目的地に向かう。そのつもりで歩いていたら、先程曲がらなかった通りの方から大きな音がした。  ここからじゃ見えないけれど、あの音から察するに、何かの衝突事故があったのだろう。  あちらを通っていたら巻き込まれていた。危ないところだった。 「守護霊様、ありがとう」  つぶやき、周囲の空間な頭を下げる。  多分だけれど、僕にはとても強い守護霊様がついている。そしてさっきのように、何かにつけて僕が危ない目に合わないよう働きかけてくれる。  怖いと思ったことは一度もない。だって、そのおかげで何度も危険を回避できているから。  この先も、守護霊様が見守ってくれていれば僕は安全だ。  だから守護霊様に病院に行くよう言われた時、僕は何の抵抗もなくその言葉に従った。  僕が気づいていないだけで、何かの病気の兆候があるのだろうか。それとも、より健康に暮らすための検査をしておいた方がいいということなのかな?  町で一番大きな病院にかかることになり、検診を受けたら、すぐさま入院する必要があると言われた。  やはり何かの病気にかかっていたのか。でも、守護霊様のおかげで、自覚症状が出る前にこうして診察を受けることができたし、これから治療もしてもらえるのだろう。  本当に、僕の守護霊様は頼りになる。 * * *  今日、あの子が病院にやって来た。  幼い頃から心臓に持病があって、実家の病院暮らしを余儀なくされていた僕に持ち掛けられた、移植手術の話。  幸いにも、提供者の候補はもう確定している。ただ、僕の体力が足りなさすぎて、このままでは手術ができない。  だから僕は何年もかけて、自分の体を手術に耐えられる強さにする必要があった。だけどその間に候補者に何かあったら総てが水の泡だ。  臓器提供者のあの子には、健やかに無事に生きていて欲しい。そう願っていたら、ある日、自分の体から魂が抜けて、写真で見た相手の所に飛び立っていた。  何故か、相手の少し未来が僕の頭の中に流れ、このままでは相手が事故に遭うと判った瞬間、僕はそれを回避させるべく相手に話しかけていた。  そのおかげで相手は事故に遭わずに済み、以降、何かと危機を回避させる僕のことを『守護霊様』と呼ぶようになった。  守護霊、課。あながち間違ってはないかな。だって霊体になっている時の僕は、間違いなく、相手を危険に合わせないためだけに働いているから。  あっちは危険だから近づくな。それは危ないから触ってはいけない。  そうやって教え、諭し、導いてようやく迎えた今日という日。  どうにか準備が整った僕の体にあの子の心臓は移植される。  長いこと君を…僕のものになる心臓を守ってきたことがやっと報われる。  これからも、君からもらう心臓を大切にして生きていく。だから君は安心して、深い眠りにつくといい。 守護霊…完
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