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「警察に行く前に、付き合って欲しい」
真奈に言われ、俺たちは帰省して村と村を挟む山に来ている。
「久しぶりだな」
白いコートを着た男性が言ってきた。
よくみると身体が半分ほど透けていた。
「兄さん、どうして敏夫に言ったの?
会ったことを誰にも話すなって」
「俺の死体が眠っていることを、誰にも知られたくなかったから」
真奈が地面に座り込んで泣き始めた。
「真奈、おまえは俺が嫌いだったろうけどな。
俺には愛しい妹だったよ。だから恨んでないんだ。
ほら、おやつだって俺のぶんもあげただろう?
俺がいなくなったおかげで、経済的に余裕ができて、
望んでいた高校にも大学にも行けて、良かったと思ってる。
俺さ、おまえと違って頭もよくなくて、大学なんてどうでもよかった」
「兄さん、兄さん......」
「大学にいかずに働くって、言ってみようと思ってたときだった」
真奈が声を上げて泣いた。
なんという純粋な想いだろうか......。
邪魔になり殺されて山の中で独りきり。
それでも、兄は妹の殺人を隠そうとした。
この山の死体がみつからないようにと。
俺に『人に話すな』と、言ったのだ。
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