序章 ヴォルデーオ王国の暗殺者が二人

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序章 ヴォルデーオ王国の暗殺者が二人

 舞台はヴェルデーオ王国。季節が春と秋しかない。城周りを上界、城から離れているところを下界と呼ぶ。この国には二つの門がある。国の出入口と、上界と下界の境目にひとつ。境目の門は朝と夜の一定時間だけ開き、その間だけ互いの界を行き来できる。  この国にはとある邪神と融合して生きている者がいるとかいないとか。所謂(いわゆる)噂話にすぎず、その真実を知る者は、誰一人としていなかった。  平穏に見えるこの国には別の顔があった。  この国の別名は宴。法など存在しないこの国の影で、ならず者や咎人(とがにん)達が繰り返し罪を犯し続けている。そんな彼らが恐れている者が、二人いる。そこでは誰も知らない者はいないと言われるほどの、知名度の高さを持っている。分かっているのは、使う武器が不思議な色をしているということだけ……。  春の風が吹く下界の町中にある酒場に、男がやってきた。  ドアが軋んで閉まると、騒いでいた男達がいっせいにこちらに顔を向ける。 「こんなところになにしにきたんだよ」  男達のひそひそ話が聞こえていたが、知らぬフリをして、カウンターに座る。  その様子を見ていた男達は、謎の男の容姿があまりにもいいので見惚れてしまった。  男の見た目は二十八歳で、背は一八〇センチとかなり高い。  無造作ヘアーの銀髪で、ダークパープルの目をしていて、目つきが悪い。すっと通った鼻梁に薄い唇。非常に派手で彫が深く整った顔立ちをしている。肌はパールのように白く、引き締まった身体つきをしている。  長袖のワイシャツの上に足首までのゴシックコート。細身の長ズボン。膝下はロングブーツを履いている。それらはすべて黒だ。  手にしている得物もかなり目を惹いた。左肩に担いでいるのは大身槍である。二藍(ふたあい)色で、一八五センチとかなり長い。  見た目は恐ろしいほどいいのに、纏う雰囲気がぶち壊しにしている。  酒を呑みにきたとしても、どうしてこうも殺気立っていて、近寄りがたい雰囲気を放つのか。  強い拒絶ならまだ分かる。けれど、話しかければ殺されるのかもしれないと思わせるほどに、声をかけづらい雰囲気を纏っている。  そんな雰囲気を知ってか知らずか、店主は普通に声をかけてきた。 「ご注文は?」 「酒」  低い声で告げると、店主が手を動かし始めた。  ――どいつもこいつも、殺気が足りない。  ふうっと溜息を吐いた男は、酒の入った木の杯をぐいっとかたむけた。
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