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無言で杯をかたむけていると、女が隣に座ってきた。
こんな雰囲気を放っている者の隣に座ってくる者など誰もいないと思っていた男は、少しの驚きを覚えた。
サルヴァは左隣に視線を向けた。
「お酒もらえる?」
注文をした女をまじまじと見つめる。
身長は一六〇センチくらいか。髪は明るい茶系でセミロング。クリッとした茶色い目。肌は白茶色。女の中では整った顔立ちをしていそうだ。ホリゾンブルーがメインで、肩から袖にかけてが白の長袖のロングドレス。右手首にはシンプルなドレスの色に合わせたブレスレットを嵌めている。腰には二本のダガーをおさめる、鞘がついた革のベルトが巻きつけられている。黒のハイヒールを履いている。
短剣の柄と鍔の色は暗緑色で、かなり目を惹いた。
歳は男と同じくらいに見える。しかし、女の歳ほど分かりにくいものはないとも思っている。
女も男ではないにせよ、話しかけるには勇気がいる。
武装をしているということは、殺し屋だろうか。
――その辺の奴らより、純度の高い殺気を纏ってはいるが……?
男は視線を逸らした。
「ここにくるのは初めて?」
酒を呑みながら女が声を出した。
「何度かきてはいるが。なぜ、俺に声をかけた?」
正直に言いながら、男は眉をひそめる。
「綺麗な顔をしてるから。……ちょっと話してみたいなって。雰囲気で威嚇でもしてるのかしら?」
女は顎に左手の指をあてて、考える。
初対面ながらそんな仕草を見た男は、つい可愛いと思ってしまった。
「威嚇か。まあ、否定はしないが。そういうお前も整った顔立ちをしているな。面倒事が多そうだ」
それについてはなにも言わず、男は苦笑する。
「まあね、見た目がいいと何かと困らない? なんか興味もないのに人に絡まれるとか?」
「あるな。それも頻繁に」
二人は顔を見合わせて苦笑する。
その横顔を見た女は、笑うと雰囲気が和らぐのねと思ったが、口にはしない。
「仕事ってもしかして……?」
「見てのとおり、暗殺者だよ」
「あたし、殺し屋だけれど」
女がにっこりと笑う。
「しかし、こんなところで誰かと話せるとは思わなかったぞ」
「誰かに会うくらいはあるでしょうに」
女は苦笑する。
「俺に話しかけてくる人間はそういないんだよ」
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