卑怯な呪文

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「ああっ、罵る声も素敵だ……もう一回聞かせてくれないかい?」 「……変態」  玲がもう一回そう言えば氷月は嬉しそうに笑った。玲はそんな氷月の手を引き、今度は彼がついてくるように歩き出した。 「今日はどこ行くんだい?」 「いや、別に決めていない」 「ええ、行き先のないお出かけなんて聞いたことがないな!」 「そういうおまえはどうするんだよ」 「もちろんきみについて行くよ。僕の願いは君のそばにいることなんだから」  そう言う氷月は玲の隣を歩き、その横顔をうっとりと見つめる。その視線に居心地の悪さを感じながらも玲は足を進めた。  そして着いた場所は玲の家。氷月はさすがに戸惑った。いくら気心のしれた仲といえど、一人暮らしの女性の家に上がりこむなど、氷月はしたことがなかった。 「玲の……家に?」 「ああ。外暑いし、どうせダラダラするなら家でいいだろ」  玲はそう言うと、玄関の鍵を開けて中へと入る。氷月もその後に続くが、玄関で靴を脱ぐのを躊躇う。 「どうした?早く来いよ」 「……いや、さすがに上がり込むのは気が引けるよ」 「はあ?今更だろ」  そんな玲の言葉に氷月は苦笑する。玲には知り合いが多くいるが、その中でも氷月は最後の方にその仲間入りとなった。それなのに、玲とよく話すのは多かった。理由は簡単。2人は元々同じ学校のクラスメイトだ。  ひょんなことから、やたら強そうな顔面偏差値の高い集団に囲まれている玲を偶然目にした時、氷月は目玉が飛び出るくらい驚いた。絡まれているのかと思い咄嗟に声が出たのが全ての始まり。  結局は絡まれていたわけではなく、全員が玲の知り合いで仲間だった。玲は否定しているが、皆が玲に心惹かれているのは一目瞭然だった。 「玲、きみはモテるね」 「はあ?なんだいきなり」
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