卑怯な呪文

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 氷月の唐突な言葉に、玲は怪訝な顔をする。そんな玲に氷月は笑う。 「僕には分かるよ。きみに惹かれる者達の気持ちが」 「……その1人はおまえだろ?」 「その通り!ああ、きみにここまで近付いている僕は本当に幸せだ……おや、何を赤くなっているんだい?」 「……うるさいな!さっさと上がれよ」 「ふふっ、照れた顔も可愛いね。ねぇ、今のあと一回」 「黙れ」  言葉を遮り玲はそのまま部屋へと向かう。氷月は楽しそうに笑みを浮かべて、やっと靴を脱いで部屋に上がった。  玄関から短い廊下を進み部屋へ入ると人をダメにするクッションに背中を預けている玲が目に入る。完全にだらけているその姿に氷月は小さく笑った。 「そんな姿は姫らしくないね」 「姫じゃないからな」 「でも皆は玲のことをそういう認識でいるよ?」 「そこが頭おかしいだろ。勝手に崇めるな」  迷惑そうな顔をする玲に氷月は口には出さずに「無理でしょ」と答えた。玲の周りにいるのは、並大抵の人間じゃない。  ある者は、王様のような絶対的な自信と態度で玲の隣を手放さない。  またある者は、騎士のような立ち回りで常に玲のそばで見守る。  その他にも玲の願いを叶えて甘やかす魔法使いのような男や、玲に対して苦言も呈する大臣のような大人の男。玲が可愛がる番犬みたいなナヨナヨした男や門番みたいな2人もいたなと氷月は彼らの顔を頭に思い浮かべた。  だれもかれも玲がいるから繋がり、玲を中心にまとまる。そんな彼らの頂点に君臨する玲は、やはり姫としかいいようがない。  そんな彼女のそばにいれる自分はなんて幸運なんだと氷月はうっすらと笑みを浮かべて、玲の隣に座った。 「玲は本当に僕の願いを叶えてくれるから、僕は常に幸せさ」  座った途端にそんなことを言う氷月に対して玲は「やっぱりおまえは変態だな」と返した。
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