卑怯な呪文

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「あと一回会いたいとか、あと一回笑顔がみたいとか。そーいう願いの言い方多いよなおまえ。それでちゃんと言葉通りもう2度とその願いは言ってこない」  本当にその言葉通り、氷月はその一回が終わればもう一度とは言ってこない。玲はそのことに対して不思議そうにする。 「おや?何か不満かい?」 「いいや?あと一回のお願いが多い割には欲張らないんだなと思っただけ」 「あと一回と言っているのに、その言葉を違うのは真摯じゃないからね。僕は欲望に正直だけど、嘘つきにはなりたくないから」  そう答えた氷月の顔は穏やかな笑みを浮かべている。玲はそんな氷月を横目で見て、「そうか」とだけ答えた。 そして2人は特に何をするわけでもなくダラダラと過ごす。  しかしそれは長くは続かない。なぜなら、氷月が「よし!」と声を上げたからだ。 「どうしたんだよ?」 「玲、僕に何か作ってくれないかい?お腹がすいてね。どうしてもきみの手料理が食べたいんだ」 「ええ……面倒だな」 「なぜだい?何度も作ってくれたことがあるのに?ねぇ、あと一回でいいから。僕に食べさせてよ」  そう言って氷月は玲の顔を見つめる。甘いマスクの彼がそんなことをすれば卒倒するものが多いが、玲は見慣れている顔だからかとくになんとも思わず。どちらかといえば「あと一回」という言葉の方に反応した。 「本当におまえって……はぁっ、もういいや」  何か言いたげな玲だったが、そう吐き捨てて料理を作りに台所へと立ち上がる。その後ろ姿を見送り氷月は玲の言いかけた言葉の続きを考えた。  呆れるのはいつものこと。それ以外に何か気に触るようなことをしたかなと悩むが、答えは見つからない。  氷月自身が自覚していないことなのだから、辿り着くのは無理だった。
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