卑怯な呪文

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 そうこうしているうちに料理を作り終えた玲が戻ってくる。いい香りと共にローテーブルに置かれたのは炒飯だった。 「んー!美味しそうだね。ありがとう玲」 「ん、さっさと食べろ」 「そうだね。いただきます」  氷月が行儀良く食べ始めるのを見て玲も食べ始める。些細な願いを叶えてくれる玲に氷月は心底感謝をし、食べ終わるとこれでもかとオーバーにお礼を言う。 「ごちそうさまでした!玲、美味しかったよ。ありがとう」 「ああ」 「ふふっ、本当にきみは料理が上手だね。こんな美味しいものを毎日食べられるなんて……いいなぁ、羨ましい。まあ、あと一回って約束だし、食べられただけで僕は幸せだけど」  そう氷月は呟くと、空いたお皿を台所へと運ぶ。その横顔を見ながら、玲はふと疑問に思っていたことを口にした。 「なあ、なんでおまえって“あと一回”ばかり言うんだ?」  それは攻めている声ではなく、淡々としたものだった。しかし氷月にとってはギクリとするような一言。 「気になるの?」 「そりゃあな。だって、おまえ……あと一回って言えば許されると思って使ってるところがあるからな」  そうだろ?と口の端を少し上げる玲。その顔に氷月は誤魔化しも効かなそうだと早々に白旗を上げる。 「ずいぶん、よく見てるんだね玲は」 「それだけおまえが私のそばにいるってことだ」  玲の言葉に氷月は薄く笑みを浮かべた。“あと一回”という言葉は、氷月にとっては欲望を貫き通すための常套句だった。そう言ってしまえば、玲は頷くことがわかっているから。打算的な行動の結果の一つに過ぎないその言葉に頼るしかなくて。でも、嘘はつきたくないからあと一回と言ったことはそれ以来口にはしないよう心がけた。  そんな氷月の考えがわかるのか、玲は真っ直ぐに見つめて言葉を紡ぐ。 「あと一回のお願いは、もうないのか?」
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